今回で育児・介護休業法改正の解説はひとまずおしまいとなります。
前回までの内容にも少し触れますのでこちらもよろしくお願いいたします。
・【改正】育児・介護休業法(前編)【2022.4.~】
・【改正】育児・介護休業法(中編)【2022.10.~】
①育児休業取得率の公表
常時雇用する労働者が1,000人を超える事業主は、育児休業の取得の状況を年一回公表することが義務付けられます。
具体的には
①男性の育児休業等の取得状況
育児休業等の取得割合(公表前事業年度においてその雇用する男性労働者が育児休業を取得した者の割合 ÷ 公表前事業年度において事業主が雇用する男性労働者であって配偶者が出産した者の数
※育児休業等には産後パパ育休も含まれます。
②育児休業等と育児目的休暇の取得割合
公表前事業年度において、雇用する男性労働者が育児休業等をしたものの数及び小学校就学の始期に達するまでの子を養育する男性労働者を雇用する事業主が、講ずる育児を目的とした休暇制度を利用した合計数 ÷ 公表前事業年度において事業主が雇用する男性労働者であって配偶者が出産したものの数
※育児を目的とした休暇:目的の中に育児を目的とするものであることが明らかにされている休暇制度。育児休業等及び子の看護休暇は除く。《例えば…》失効年休の育児目的での使用、いわゆる「配偶者出産休暇」制度、「育児参加奨励休暇」制度、子の入園式、卒園式等の行事や予防接種等の通院のための勤務時間中の外出を認める制度(法に基づく子の看護休暇を上回る範囲に限る)などが該当します。
中小企業等のへの支援
中小企業ではぎりぎりの人数で経営していることが多いことから、行政の方でも支援していく方針でいます。
例えば、育児・介護プラン導入支援事業というものを行っており、社会保険労務士などの専門家を派遣することを行っています。(詳細はこちら:育児・介護プラン導入支援事業(厚生労働省ホームページ))
また、金銭面では、出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)、育児休業等支援コース、介護離職防止支援コースなどの対策も講じています。
男性の育児休業促進事業(イクメンプロジェクト)
「イクメンプロジェクト」とは
・積極的に育児をする「イクメン」及び「イクメン企業」を周知・促進するプロジェクト。(2010年から実施)
・企業・個人に対する仕事と育児の両立に関する情報・好事例等の提供や経営者・人事担当者や若年者向けセミナーの開催等により、男性の育児休業取得率に関する取り組みを促進すること。
「イクメンプロジェクト」のねらい
・男性の育児休業等の取得や育児短時間勤務の利用を契機とした職場内の業務改善や働き方の見直しによるワークライフバランスの実現。
・男性の育児に参画したいという希望の実現や育児休業の取得促進、女性の継続就業率と出生率の向上。
参考:育MENプロジェクト(厚生労働省ホームページ)
②育児・介護休業法の変遷
今回改正がなされる内容は以上になります。もう一度整理すると、
①有期雇用労働者の要件の緩和(2022年4月1日から)
②個別周知・意向確認の義務(2022年4月1日から)
③育児休業の取得をしやすい雇用環境整備の義務(2022年4月1日から)
④産後パパ育休制度の創設(2022年10月1日から)
⑤育児休業の分割取得等(2022年10月1日から)
⑥育児休業取得率の公表(2023年4月1日から)
④及び⑤がメインになります。
さて、以前も申し上げましたが、育児・介護休業法は1992年4月1日に施行されて、今年がちょうど30年目にあたるのですが、今まで幾度となく改正が行われてきました。育児・介護休業法は実務でも関わることが多いですし、助成金絡みや就業規則の改正など、抵抗感を持ってしまう法律でもあります。(私だけでしょうか。)
そこで、施行から今までの改正内容を簡単におさらいしたと思います。
1992年(平成4年)施行当時
・従業員数が常時30人以上の事業所を適用の対象。
・育児休業:子が1歳まで(常用労働者が30人以下の事業所は適用猶予。)
・育児短時間勤務:子が1歳まで。(短時間勤務、フレックス、始業終業時刻の変更。)
1995年(平成7年)改正
・育児休業法が育児・介護休業法に名称変更。(従業員数に関わらず全ての事業所が法の適用対象に。)
・育児休業:子が1歳まで。(すべての事業所で取得可能に。)
・育児休業給付金:休業開始時賃金日額の25%。(休業中20%+職場復帰後5%。)
1999年(平成11年)改正
・深夜業の制限:子の小学校入学まで。
・時間外労働の制限:子の小学校入学まで。
・妊娠・出産等を理由とする解雇の禁止。(男女雇用機会均等法)
→妊娠が判明した時点で退職勧奨をされることがある場合、育児休業が取得できなくなるため。
※なお、この時代は男女間で募集・採用・配置・昇進などの差別があり、求人票には「男性(女性)のみ募集」と表記することが可能であった時代です。出産するのであれば辞めてくださいというような解雇に近いものであったり、「寿退社」と言う形で仕事を続けたくても続けられないような文化がありました。
2001年(平成13年)改正
・育児休業給付金:休業開始時賃金日額の40%。(休業中30%+職場復帰後10%。)
2002年(平成14年)改正
・所定労働時間の短縮:子が3歳になるまで短時間勤務、フレックスタイム制、始業終業時刻の変更等の措置を講じる必要があります。
・子の看護休暇:(年5日、努力義務)
→子の看護休暇とは、傷病にかかった子の世話または疾病の予防を図るために必要な世話を行う場合の休暇をいい、年次有給休暇とは別に取得することができます。(法第16条の2)(賃金の有無は就業規則等にて定める。)
・育児休業の申出・取得を理由とする不利益取扱いの禁止。(育児休業終了後に正社員からパートタイムに契約変更させるなど。)
2005年(平成17年)改正
・原則、子が1歳まで(1歳6ヵ月までの延長も可)育児休業に取得が可能に。
・一定の要件を満たす有期雇用労働者も育児休業の取得が可能に。(今回の改正につながる部分です。)
・子の看護休暇が努力義務から義務化に。
2007年(平成19年)改正
・育児休業給付金:休業開始時賃金日額の50%。(休業中40%+職場復帰後10%。)
・妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止。(男女雇用機会均等法)
→賞与の金額、降格等すべての不利益取扱いの禁止。
2010年(平成22年)
・パパママ育休プラス制度の創設。
・出産後8週間以内の父親等の育児休業に関する特例。(パパ休暇)
・労使協定による専業主婦(夫)除外規定の廃止。(これ以前は、妻(夫)が専業主婦(主夫)の場合は育児休業が取得できませんでした。)
・所定外の労働の免除制度の創設。(措置義務)
・短時間勤務措置の内容変更。(所定労働時間を6時間とする措置)
・育児休業給付金:休業開始時賃金日額の50%。(全額を休業期間中とする)
2017年(平成29年)
・原則、子が1歳まで(2歳までの延長も可)育児休業に取得が可能に。
・有期雇用労働者も育児休業の取得要件が緩和。(①雇用期間1年、②1歳6ヵ月に達するまで雇用の継続が見込まれること)
・子の看護休暇・介護休暇の半日単位の取得が可能に。
・妊娠・出産。育児休業等に関するハラスメント対策が事業主の義務に。(マタハラ・パタハラ対策)
③まとめ&課題
ここまで簡単ですが、長々と書かせていただきました。本当は細かいところの改正もあったり、介護休業法と合わさったことによりもう少し複雑です。簡単に育児・介護休業法の法改正の効果を見ていきたいと思います。
・妊娠中:妊娠を理由とする解雇は禁止。切迫流産等で休業しても解雇は禁止。(事業主によるハラスメント対策も義務化。)
・産休中:産前産後休業、育児休業を取得することによる解雇、雇止めは禁止。
・育休中:育児休業給付金の申請、保険料免除申請など。
・復職後短時間勤務中:復職させないこと、契約変更、降格等の不利益取扱いの禁止。
最後に育児休業取得率について、女性は81.2%、男性は12.65%(2020年度)となっています。
ここでこの統計を見る際に気を付けるべきことは、出産を機に退職した人はそもそも統計の対象外とされていることです。出産を機に退職された人は46.9%いらっしゃいます。また、妊娠・出産を機に退職をした理由について、「仕事と育児の両立が困難」が41.5%、「勤務地や転勤等の問題で就業の継続が困難」が26.2%、「妊娠・出産を機に不利益な取扱いを受けた」が16.9%となっています。
一方、政府は男性の育児休業取得率を2025年までに30%以上の達成を目指しています。これについては、1日でも育児休業を取得した日があればカウントされるので、実際に育児に貢献できたかという根本的な問題が解決できているかどうかは問題です。
このように、施行から30年かけて法整備を行ってきているのが現状ですが、今後の働き方改革等の流れを踏まえますとさらなる法改正がなされる可能性は十分にあります。また、育児・介護休業法は男女雇用機会均等法などの他の法律の改正の影響と連動することがあり、非常に理解するのが難しい法律なのです。実務でも就業規則の見直しや、従業員への周知事項など事業主の責務が多いのも特徴です。これからも今後の動きに注目していき、改正や通達等が出ましたら本ブログでも取り上げたいと思います。
それでは本日もご覧いただきましてありがとうございました。
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