こんばんは、kanariyaです。
社会保険法各法が改正される中で、それに合わせるように労働保険の改正も行われます。
今回は来月から始まる雇用保険マルチジョブホルダー制度について見ていきたいと思います。
現在の雇用保険制度について
現在の雇用保険制度は一般の被保険者の給付、高年齢被保険者の給付、短期雇用特例被保険者の給付及び日雇労働被保険者の給付の4種類に分類されます。この4種類の給付のことをまとめて求職者給付と言います。
今回は一般の被保険者と高年齢被保険者だけに絞りますが、この二つの区別をまず把握しましょう。その前にこの二者が雇用保険に適用される要件を見ていきます。
①1週間の所定労働時間が20時間以上の者
②同一の事業主の適用事業に継続して31日以上雇用されることが見込まれる者
この2つの要件を満たしたものが雇用保険の被保険者となります。
一般の被保険者は高年齢被保険者、短期雇用特例被保険者及び日雇労働被保険者以外の者を指し、高年齢被保険者とは65歳以上の被保険者(短期雇用特例被保険者及び日雇労働被保険者以外の者を除く)のことを言います。65歳以上の被保険者が失業等により資格を喪失した場合は高年齢求職者給付金が支給されることになるわけですが、高年齢求職者給付金の支給を受けるためには、離職の日以前1年間に被保険者期間が6月以上あることが必要になります。高年齢求職者給付金の額は、算定基礎期間(被保険者であった期間と表することもあります)が1年未満の場合は基本手当の日額の30日分、1年以上の場合は50日分が一時金として支給されます。一般の被保険者の場合は、最低でも90日分が分割で支給され、離職理由によって所定給付日数が異なるのに対して、高年齢求職者給付金は算定基礎期間の長さだけで判断され、離職の理由は問わないところがポイントになります。
法改正箇所
今回の法改正は、タイトルを見ていただけるとある程度想像がつくと思うのですが、複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者が、そのうち2つの事業所での勤務を合計して被保険者の要件を満たす場合に、本人からハローワークに申出を行うことで、申出を行った日から特例的に雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)となることができる制度が創設されます。
雇用保険は一般の被保険者等も同様ですが、2以上の事業主の適用事業に使用される者は2以上の雇用関係のうち一の雇用関係についてのみ被保険者となる仕組みとなっており、その者が生計を維持するに必要な関係のうち主たる賃金を受ける雇用関係についてのみ被保険者となります。つまり、雇用保険の被保険者資格を2つ以上持つことはありません。(社会保険との違いについて後述。)
そして、マルチ高年齢被保険者が雇用保険の適用を受けるには本人による申出が必要で、加入後の取扱いは通常の雇用保険の被保険者と同様で任意脱退をすることができない仕組みとなっています。
基本的な流れは、被保険者資格の取得の手続はそれぞれの事業主が行い、被保険者が希望する場合には雇用の事実や所定労働時間などがわかる証明書類を持って、被保険者の住所を管轄する公共職業安定所にて申出をします。その際に、雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得届の記入をします。その後、公共職業安定所が審査をしそれぞれの事業所へ資格取得決定の通知をするということになっています。離職等で資格を喪失した場合も雇用保険マルチジョブホルダー喪失・資格喪失届の提出が必要になります。
例えば、A事業所で週15時間、B事業所で週8時間、C事業所で週6時間で雇用されている65歳以上の方の場合(こういうケースの方はあまりいないと思うのですが)、上記のAとBの事業所で雇用保険の適用を受けた場合、Bを離職しても、AとCの労働時間が週21時間(20時間以上)あるため、AとBで喪失に係る届出後、改めてAとCの雇入に係る届出が必要になります。(ややこしいですね。)
(狭義の)社会保険との関係について
狭義の社会保険(健康保険法及び厚生年金保険法)はどうなっているかも併せて確認しておこうと思います。
社会保険では保険料を計算する場合、「標準報酬月額」という等級表に当てはめて計算するのでしたね。同時に2以上の事業所で報酬を受ける被保険者について報酬月額を算定する場合、各事業所について受ける報酬の額を基礎として算定した額の合計額をその者の報酬月額とし、その報酬月額に基づき標準報酬月額を求めます。(各事業所ごとに標準報酬月額を決定してから合計するわけではありませんので注意してください。)
手続きとしては、健康保険・厚生年金保険被保険者所属選択・二以上事業所勤務届というものを日本年金機構へ提出する必要があります。社会保険は、雇用保険と違い、希望する場合ではなく2以上の事業所から報酬を受け取っていれば必ず届出が必要になります。また、主たる賃金を受ける雇用関係等ではなく選択事業所及び非選択事業所の情報をそれぞれ記入します。(事業所整理番号や被保険者番号はわからないケースも多いと思うので空欄でも通るケースはあります。)保険料は決定された標準報酬月額による保険料を各事業所の報酬月額で按分したものがそれぞれの事業所が負担する額になります。(決定通知書をみればその方の負担する保険料はわかるのですが、各事業所の負担額の詳細は年金事務所に聞くと早いです。)
注意する点として、健康保険被保険者証は選択事業所の保険者が発行するものに限りますので、2枚以上発行されることはありません。また、決定通知書が事業所に届くため、副業していて2以上勤務をしていることが会社に把握されます。
そして、健康保険・厚生年金保険被保険者所属選択・二以上事業所勤務届は基礎年金番号を記入する欄があるのですが、個人番号を記入しても構いませんが、個人番号を記載する場合、添付資料として運転免許証やパスポートの写しが必要になります。(資格取得届は個人番号を記入すると住所を省略できるのですが、この届書に関しては基礎年金番号を書いた方が無難です。)
まとめ・展望
65歳という年金受給の節目年齢の法改正が多いですね。今回のは前回までと違ってそこまで重要ではありません。(65歳以上の在職老齢年金の支給調整額は変更ありませんし、65歳を超えて数か所で勤務することが想定されにくいため。)
ただし、老後の生活防衛費に余裕のある方や、繰下げ支給の老齢年金を検討している方の中には該当する人も出てきそうではあります。
その場合にはその保険者の勤務状況を把握しておく必要がありますので覚えておいてください。
また、従業員がマルチジョブホルダーの適用を希望する場合には各事業主の方の協力が必要になりますので、従業員から必要な証明書等を求められたときは実務で携わりそうな方は速やかなご対応をお願いします。
それでは本日もご覧いただきましてありがとうございました。
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