【法改正】年金法の改正(2022.4~)① 適用編

税金・社会保険・労働関係

こんにちは、kanariyaです。

年金という制度は毎年何かしらの法改正がされていて、仕組みもややこしいというイメージがある方も多いと思います。そう思うのも後述する改正の背景や変遷を見てもらえれば当たり前ですのでご安心ください。またその影響もあって、社労士受験生の多くが国民年金法、厚生年金保険法を苦手としています。法改正が多い=改正前と改正後の内容の把握、それによって誰にどのような影響をもたらすのか、そもそもなんで改正するのかの背景を理解しなくてはいけないからです。

そこで本日から数回にかけて、年金法の改正について解説してみようかと思います。

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(公的)年金に法改正が多く制度がややこしいワケ

まず公的年金法がなぜ何度も改正されているというところからご説明します。
遡ること昭和17年6月、工場・鉱業・運輸業等で働く男子の現業労働者を被保険者とした労働者年金保険法が誕生しました。その後昭和19年に名称を厚生年金保険法に改称し、男子事務労働者や女子労働者にも適用し、終戦を迎えました。
一方、労働者以外の年金制度はもう少し先の話になり、現在の国民年金は昭和34年の4月に自営業者等を対象として制定されました。これは、戦後の復興が進む中で、核家族化の進行、将来の高齢化社会への展望を背景に全国民を対象にした老後の所得補償の必要性を鑑みたものです。昭和34年の11月に無拠出性の福祉制度が、昭和36年4月から拠出制の国民制度が実施され、全ての国民がいずれかの年金制度に加入する国民皆年金体制が実現しました。
ですので、国民皆年金体制が実現した当時は、公的年金制度は民間労働者を対象とした厚生年金制度、自営業者等を対象とした国民年金制度、(加えて船員を対象とした船員保険制度、公務員を対象とした共済年金制度)とそれぞれが分立した制度体系をとっていました。このため、加入している制度によって給付と負担の両面で制度間格差が生じるなどの課題を抱えることになりました。そこで昭和61年4月より国民年金の適用を自営業者等のほか、被用者年金制度の加入者本人及び被扶養配偶者にまで拡大し、全国民共通の給付として国民年金から基礎年金を支給する仕組みを創設するとともに、被用者年金制度については、基礎年金の上乗せの2階部分(報酬比例部分)を支給する制度して再編成を行いました。これにより現在の公的年金制度は、全国民を対象とする国民年金制度と被用者年金の厚生年金制度の2階建ての仕組みが確立され、国民年金は全国民共通の基礎年金による保障を受けることとなりました。
その後、平成27年10月1日から被用者年金の一元化という大規模な改正が行われていますが、今回は割愛します。(いずれ記事にするかもしれないです。)

つまり、元々想定していた年金の制度から社会情勢がどんどん変化していったため、法改正をしなければならず、仕組みも暫定措置(いわゆる法改正前の制度に年金を受給していた方、する予定だったかた)が多いのでどんどん複雑化してわかりにくくなっているということです。

その他要因

法改正が多い理由として、先日も取り上げた「少子高齢化」にあります。これは、社会保障ひいては税金のお話をする上で避けては通れないワードになっています。
高齢者(年金受給者)が増えて子供(保険料の不義務者)が減っている、つまり、給付>保険料の徴収になってしまい、積立金を取り崩したりしたとしても年金制度が破綻寸前になってしまいました。
そこで、給付額の方を見直すマクロ経済スライド制の導入(簡単に言えばキャリーオーバー制みたいなもの)や、現役世代からの保険料徴収も限界ということで保険料水準固定方式(厚生年金保険料はもう18.3%固定だから安心してね(笑顔))と政府も何とかしてきたわけであります。ほかにもたくさんありますが、とりあえず年金制度は悪化の傾向にはありますが破綻まではしないんじゃないかなと思ったりしています。

改正ポイント① 厚生年金保険(健康保険)法の適用対象者の拡大

上記保険料水準固定方式の導入により社会保険料は固定するとお約束しました。給付額もお年寄りが最低限の生活ができるようにしています。なるべく生活保護受給者を増やさないように政府も取り組んでいます。
それでも少子高齢化(今や超高齢社会ですが)の問題が改善していない以上、根本的な解決には至っていません。

そこで政府はあるところに目をつけました。

日本は平均寿命も健康寿命も世界トップクラスなんだから、社会保険料を納付する(率ではない)を増やしましょう、高齢者にも働いてもらえばいいんじゃない?と考えました。そうすれば財源を確保しつつ年金の受給開始年齢を遅らせられるという素晴らしいアイデアでありますね。

では、改正ポイント一つ目の厚生年金保険(健康保険)法の適用対象者の拡大についてどう変わったのかわかりやすく図解化します。

対象要件平成28年10月~(現行)令和4年10月~(改正)令和6年10月~(改正)
事業所事業所の規模常時500人超常時100人超常時50人超
短時間労働者 労働時間週の所定労働時間が20時間以上変更なし変更なし
短時間労働者 賃金月額88,000円以上変更なし変更なし
短時間労働者 勤務期間継続して1年以上使用される見込み継続して2か月を超えて使用される見込み継続して2か月を超えて使用される見込み
短時間労働者 適用除外学生ではないこと変更なし変更なし
                                                  社会保険(適用編パート4)より

これは以前投稿した記事の表の再利用になりますが、事業所の規模と、短時間労働者(パートタイマー、アルバイト等)の条件が緩和されています。
特に、短時間労働者の場合、事業所の規模が101人以上のケースに該当する人がたくさん発生します。
(大手の小売業や飲食業などは500人はいないけど100人はいるケースは結構あると思います。)

対応方法・注意点

これによって短時間労働者の働き方も変わりそうですね。
厚生年金保険と健康保険はほぼ要件が同じで同時加入なので、この二つの保険料(約25~30%)を納めてまで働きますかと言われるとうーんって感じですし、扶養内で働いている被扶養配偶者の方が今回の要件を満たした場合、配偶者の扶養を外れてしまうケースが発生する可能性があります。
この改正により、扶養を外れて自分で厚生年金保険(と健康保険)に加入した方将来的にいいの?という質問が飛んできそうですがこう聞かれるとかなり回答にが難しいです。
厚生年金保険は標準報酬月額制を採用しており、会社からいただく報酬によって納める保険料が変わるため、将来受け取る年金額が変わります。また、働いているときに昇給して標準報酬月額が変更したりする可能性もあるため、入っていれば当然受給の際に給付額に反映されるので老後の生活の不安も少しは解消されるわけです。ただし、前述のマクロ経済スライド制度により給付額が引き下げられたり、税法上の控除対象配偶者との関係もあり、こうした方がいいよというのはなかなかアドバイスできないのが現状です。
少し触れにくい問題ではありますが、配偶者の死亡や配偶者との離婚等の偶発的な事由によって、ずっと被扶養配偶者でありつづけることができない可能性もあります。
ですので、該当する方はもちろん、実務で携わっている方は今のうちに制度の改正とその会社の社長や、労働者の方に関係しそうなところだけでも周知することをオススメします。

次回は在職老齢年金の改正部分について解説いたします。

それでは本日もご覧いただきましてありがとうございました。

参考: 厚生労働省ホームページ  平均寿命と健康寿命の推移
   社会保険適用拡大特設サイト 従業員数500人以下の事業主のみなさま

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