政府は新型コロナ感染症拡大の前からテレワークを推進していたわけですが、新型コロナの影響もあり、2021年3月にガイドラインの改定を行っています。
この改定の重要なポイントについて4つお伝えします。
テレワーク対象者の選定(導入時)
緊急事態宣言が解除され、テレワークから元通りの出勤へと勤務形態が戻った方もいらっしゃると思います。
テレワークとは勤務場所の変更になりますので性質としては配置転換と通ずるものがあります。つまり、事前に就業規則の整備や労使間で話し合い、どういう形でどういう人をテレワークの対象者としたり、その中で対象者がテレワークを望んでいるのかどうかの意見を伺う機会を与えたり、指揮命令するためのルール作りが必要になります。
ここで注意するべき点は、正規職員と非正規職員、男性と女性など雇用形態や性別のみを理由として対象者の選定を行ってしまうと他の法律(パートタイム労働法、労働者派遣法、男女雇用機会均等法などの不合理な待遇の禁止)に抵触するおそれがあることに注意が必要です。
労働時間管理の把握
テレワークによって直接同じ場所にいることが少なくなりますから必然と労働時間の管理のハードルは上がります。
ただ、テレワークが導入されたとはいえ従前の労働基準法や労働安全衛生法などの法律の適用を受ける労働者であることには変わりはありません。
そして労働時間の適正な管理や把握をするという原則は変わりませんので、引き続き今まで通り行うこと必要があります。例えば、客観的に管理されていることがわかる記録方法としてはパソコンの使用時間等があります。
テレワークにより労働時間の把握が困難となった場合には労働者からの自己申告も認めていますが、長時間労働や過重労働を誘発するおそれのあることからその際の取り扱いには留意する必要があります。
また、この機会にフレックスタイム制(労基法32条の3)や事業場外労働に関するみなし労働制(労基法38条の2)の導入を検討する企業もあると思いますが、在宅勤務等に事業外労働に関するみなし労働制を適用する場合には、情報通信機器が使用者の指示によって常時通信可能な状態に置くこととされていないこと、随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないことの要件が必要になります。
そして深夜業務、休日に関する規程の適用は排除されないことにもご注意ください。
健康管理・作業環境管理
在宅勤務をするということは、そもそも自宅の環境が労働する環境としてふさわしいかどうかが問題になります。
労働をするにあたり適切な環境があればいいのですが、ダイニングテーブルで仕事をしたり、背もたれのないイスで作業をすると想像以上に身体に負担がかかります。何気なく使っていたオフィスの机やイスは大切なんだと改めて認識させられます。
作業環境の変化は身体的なことだけに影響を及ぼすことではありません。
テレワークの導入が早かった欧米諸国と同じく、日本においても孤立によるメンタルヘルス不調がテレワークの長期化において顕著になっているようです。
作業環境は個々の労働者によって異なりますから、事業主はチェックリスト等を用いて健康管理体制の整備や、うまくコミュニケーションのとることができる環境体制を構築する必要があります。
また、テレワークを行うにあたって難しい問題として労災にあたるかどうかの認定が困難になっていくことが予想されます。テレワークであっても労働契約に基づいて、事業主の支配下にありあること(労務遂行性)、事業主の支配下にあったこととその負傷、疾病等との間に因果関係があること(業務起因性)があれば、労災認定にあたる可能性があるので、事業主側の管理はもちろんのこと、労働者側も協力して労働管理を行う必要があります。
情報セキュリティ・個人情報管理
テレワークが実現できている背景には、多様な製品やサービスが充実してきたこともあげられます。
このような新たな製品やサービスを活用しテレワークを推進していく一方で、結果としてシステム構成や利用形態が多様化し、従来から整備してきた情報システムのセキュリティ対策や情報セキュリティ関連規程が十分に対応できていない状況も想定されています。
例えば、インターネットとオフィスネットワークの境界部分では厳重なセキュリティ対策が実施されることが一般的ですが、テレワークにクラウドサービスを活用し、オフィスネットワークを経由することなくインターネットに直接アクセスする場合にはそのようなセキュリティ対策は機能しません。
また、企業等が管理するパソコンは、通常はセキュリティ対策ソフトを導入し管理していますが、テレワークで自宅のパソコンや自身のスマートフォン等を利用する場合、そのようなセキュリティ対策もそのままでは機能しません。
テレワーク環境を含む情報システムに対するサイバー攻撃についても、正規のメールと容易に区別がつかないような不審メールによるマルウェア感染の広まりや、特定の企業等を徹底的に狙った標的型攻撃の発生など、高度化・複雑化し続けています。
既知の攻撃手法への防御を念頭に構成されたセキュリティ対策だけでは十分な防御が難しくなってきており、オフィスネットワーク内に攻撃者が侵入することを前提にセキュリティ対策の在り方を再検証するゼロトラストという考え方に注目が集まっています。この考え方は、前述したような多様化するシステム構成や利用形態に対するセキュリティの向上という観点からも注目されています。
参考
・雇用型テレワークガイドライン
・テレワークガイドライン①
・テレワークガイドライン②
・労働時間適正把握ガイドライン
・自宅等でテレワークを行う際の作業環境整備
・テレワークセキュリティガイドライン(総務省)
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