【メンバーシップ型】わが国における働き方に対する考え方の変化③【ジョブ型】

ビジネス・マネジメント

わが国において最も導入されている雇用システムは「メンバーシップ型」であり、今般注目を浴びているのが「ジョブ型雇用」、そして、両者のいいところを取り入れたものがロール型雇用というのは前回までに説明しました。
<過去の記事>
【メンバーシップ型】わが国における働き方に対する考え方の変化①【ジョブ型】
【メンバーシップ型】わが国における働き方に対する考え方の変化②【ジョブ型】

新型コロナウイルス感染症問題発生後に日の目を見るようになったジョブ型雇用ですが、実は過去にもジョブ型雇用ブームがあったことに今回は少し触れてみたいと思います。

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日本型雇用システムと社会情勢の変化によるジョブ型雇用の共存

今般のジョブ型雇用制度の導入の流れを生む一つのきっかけとなったのは、一般社団法人日本経済団体連合会(以下、「経団連」とする)故中西宏明会長(当時)の発言でしょう。
2019年5月7日の定例記者会見で以下のような発言し、大きく取り上げられました。

「終身雇用を前提に企業運営、事業活動を考えることには限界がきている。外部環境の変化に伴い、就職した時点と同じ事業がずっと継続するとは考えにくい。働き手がこれまで従事していた仕事がなくなるという現実に直面している。そこで、経営層も従業員も、職種転換に取り組み、社内外での活躍の場を模索して就労の継続に努めている。利益が上がらない事業で無理に雇用維持することは、従業員にとっても不幸であり、早く踏ん切りをつけて、今とは違うビジネスに挑戦することが重要である。」

この部分だけ聞くと、経営者層の意見を代弁しているようにも聞こえますが、中西氏が本当に述べたかったことはこれだけではないことは過去の発言から窺うことが出来ます。

「終身雇用制や一括採用を中心とした教育訓練などは、企業の採用と人材育成の方針からみて成り立たなくなってきた。」

これは2018年9月3日の定例記者会見での発言です。

つまり、「新卒一括採用」にて若手を対象に採用し、入社後に職場研修などのOJTを経て会社に貢献する人材を育成することや、「定期昇給」によって労働者本人だけでなく、その家族を含めた保障をし、定年まで同じ企業にて働いてもらう「終身雇用制度」について労働者側だけでなく企業側の立場から現在の就活ルールについて言及しているのです。

近年の技術革新のスピードや働き方の多様性、ITやAIの発展、また共働き世代の増加や家族構成の変化等により、ビジネススタイルだけでなくライフスタイルまでもが目まぐるしく変化していく時代において、真っ白なキャンバスに一から教え込み、長い目線で企業の色に合わせた人材を育成するよりも、専門性を持った人材を育てる方が理にかなっていると考えるのも妥当ではあります。

しかし、専門的な人材を必要とする場面において、その都度人材の一部を中途で採用すればよいではないか、それこそ労働者派遣法に本来の趣旨に則り、適材適所の配置を行えばよいのではないか、新卒一括採用を含む終身雇用の仕組みまで見直すというのは極端すぎないかという意見もありました。

中西氏が考える「人材」と今後の経済の展望

仮に採用方針を改めたとして、今後どのような採用システムを導入するべきなのか、今後の日本の企業が取り組むべき更新の一つとして、2019年4月22日に開催された「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」で、
「新卒一括採用と企業内でのスキル養成を重視した雇用形態のみでは、企業の持続可能な成長やわが国の発展は困難となる。(中略)今後は、日本の長期にわたる雇用慣行となってきた新卒一括採用に加え、ジョブ型雇用を念頭に置いた採用も含め、学生個人の意思に応じた、複線的で多様な採用形態に、秩序をもって移行すべきとの認識で、産業界側と大学側が合意した」
と述べました。

ここで従来の採用スタイルだけにとどまらず、欧米諸国の採用モデルの導入するのが望ましいとしジョブ型雇用の推進を提案したのです。

ここからは、ジョブ型雇用と今後の日本の経済の発展のために必要なことや問題点を私なりに考えてみました。

少子高齢化社会に適応している

近年は日本だけに限らず、どの国も少子高齢化の傾向が強くみられます。特に日本においては医療や介護の発展とともに平均余命、健康寿命ともにトップの水準にいます。
一方で合計特殊出生率は1.4前後で推移しています。また2019年の出生率ランキングにおいて、先進国中もっとも順位が高かったのは133位のフランスで1.9という低水準。

少子高齢化の問題がすぐに解決できないと判明している以上、今ある生産年齢人口を如何にしてうまく活用していくかが重要であるように思います。

そこで一人ひとりのスキルを上げていくことが求められる。団塊ジュニア世代が65歳を迎える2050年、日本の総人口の約3分の1以上を65歳以上が占めると予測されています。

今の日本では、外国人労働者の力を借りながら各産業を維持しているものの、世界の人口が減少傾向にある以上、自国のことは自国で解決しなければいけなくなるときが来るでしょう。そのためにも各人がある程度の専門性も身に付けるというのは時代の流れに順応しているように思えます。

スキル重視の採用方針は新卒に不利か?

ジョブ型雇用を採っている欧米諸国でも大学を出ても就職できない若者は多くいます。仮に日本が従来のメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へ徐々に移行していった場合でも同じように就職できない人は出てくるでしょう。
大学生には基礎教育を学ばせる一方で、興味のある分野に関する資格を取得したりや経験をさせるカリキュラムなどを編成するなど、大学側でも従来の講義内容を検討し、卒業後の学生が社会に貢献できるような仕組みを構築していく必要ことが求められるでしょう。

就職困難者のフォローの必要性

ジョブ型雇用の採る企業は、募集の段階で必要な資格やスキルを求めているケースが多い。つまり、大学生に限らず、ある程度の基礎スキルが不可欠であり、裏を返せば基礎スキルがない者は就職することはおろか、応募することすらできない状況に陥ります。

また仮に職業教育を充実させたとしても、ジョブ型雇用の場合募集数が限定されるため少ないイスを大勢の者で取り合う状況になります。そうなると就職率の高さを標榜している大学にとっては致命的になり、従来型の教育プログラムを取り続ける大学は自然と淘汰されていくことが予想されます。

大学に限らず時代の潮流を認識していない組織は自然と淘汰されるのはよくあることですが、学生自身にとっても今以上にライフプランを考える時間やそれに対する支援が必要になってくるでしょう。

業界・職種未経験の転職希望者の支援

ここまでは学生や若者が直面するであろう問題について見てきましたが、すでに働いている人、社会人経験が長い人の目線で考えてみたいと思います。

日本は雇用の流動性が低い国と言われています。未だに一度入社した会社にすべてを捧げるのが美徳だと考える人も多いですし、「転職」ということがそれほど浸透していないように感じます。

もちろん在籍年数が短い、転職回数が多い、というキャリアの人は転職しにくいというのは理解できますし、採用側の立場からしたらどんなにハイスペックの人が応募してきても二つ返事で採用しますとはならないでしょう。

ただでさえ転職が広まらない日本においてさらに問題なのが、異業種への転職です。同業種の転職であれば前向きに検討する企業も増えてきています。企業側も積極的に理解している傾向にあると感じています。

ただ、実際に私自身の目で見てきて、未経験者を受け入れる会社が多いかと言われるととても少ないと断言できます。職業柄、さまざまな業界の求人情報を見る機会が多いですが、未経験者歓迎と謳っている企業の多くが慢性的な人手不足、人材育成に力を入れていない会社が目立ちます。

積極的に転職を薦める立場にはいませんが、日本は新卒という特権が強すぎるあまり、合わない会社や業種からキャリアチェンジすることが困難な構造になってしまっています。

私は常に選ぶかどうかはともかく「逃げる」という選択肢を持つべきだと言い続けています。これは仕事に限ったことではありません。ダメだなと思ったら環境を変えてみるのもありだと思っています。常に同じ場所にいては同じ景色しか見えません。物事を多角的に見るためには距離を置いたり、一度離れたりすることも重要だと思うのです。

職業の場合に当てはめると、企業内においては職種転換をサポートする再教育の制度、それをフォローする外部団体による専門家のコーチング、転職においては公的機関と通じて専門教育を学ぶ機会の充実化や国の支援等が今以上に必要になると思います。

70歳定年制と年金問題との関係性

2021年4月1日から、高年齢者雇用安定法の改正が施行され、定年を70歳に延長するなどの「就業確保措置」が努力義務化されています。(参考:【労働一般】高齢化社会に対応した雇用保険法の改正+α

これは急激な高齢化に対する措置の一つにすぎませんが、いずれ義務化されていくものと見られます。年金財政が逼迫している中、近い将来年金支給開始年齢も変わってくるでしょう。
ジョブ型雇用の制度により各人が専門的なスキルを持った人材になることで、年金だけに頼ることなく仕事をすることが可能になることが考えられます。

このように、ジョブ型雇用と70歳定年制は矛盾しているようにも思えますが、企業にとって必要だと思える人材であれば年齢による制限は関係ありません。

終わりに

日本に住む人の平均寿命は、男女合わせて80歳を超えています。平均寿命は毎年上がり続けており、内閣府の調査によると、2050年には女性の平均寿命が90歳にまで上昇する可能性があることが予想されています。

こうした社会情勢の変化に伴い、高年齢者に対する法的措置だけではなく採用システムも同時に変化していくべきだと思っています。
それは、今後の社会を担う若い人たちが主役となって日本という国を支える立場になっていくということでもあり、一方で少子高齢化の影響により支え手不足により現役世代からの支援だけでなく自分のことは自分自身で解決するスキルが求められつつあるからです。

しかし、万人がそうできるわけではないことも事実です。そのような場合には公的な支援等がスムーズにサポートできるような体制を整えてくことが必要不可欠なのです。

日本企業あるいは働く人がジョブ型雇用を望んでいるのかというのは経団連からは公表されていません。経営者側の全員が終身雇用制の廃止、新卒一括採用の見直しを望んでいるわけではありません。

各企業の特色によってジョブ型雇用に対応できるか難しい問題といえることから、既存のシステムから新たな採用システムを検討しロール型雇用の導入を始めてみたりすることも可能です。

企業が変わることにより、働く人にとってもよりよいライフプランが設計できるよう双方にとって新たな選択肢が生まれるきっかけになればいいのではないかと思います。

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