みなさん、「公共職業安定所(以下、「ハローワーク」)」はご存じでしょうか。主に失業している人が仕事を探しに行ったり、失業給付をもらいに行ったりするところだという印象かと思います。
これは半分正解で半分は不正解となります。
今回はハローワークが何をしているところかざっくりと見ていきたいと思います。
ハローワークとは
ハローワークとは、厚生労働省設置法第23条に基づき設置される「国民に安定した雇用機会を確保すること」を目的として国(厚生労働省)が設置する行政機関のひとつになります。
位置づけとしては厚生労働省の下請け機関というポジションですが、その間には各都道府県労働局があり、総務部や労働基準部、職業安定部などがあり、ハローワークは主に職業安定の業務を担っています。ちなみに労働基準監督署は総務部の労働保険徴収業務や労働基準監督業務、労働安全衛生業務を行っています。しかし、都道府県によって組織図や各部署の名称は微妙に異なることがあります。
行政組織については、国家行政組織法や行政官庁法などが絡んでとても複雑になるためここまでにするとして、ハローワークとはどうやら「国民に安定した雇用機会を確保すること」を目的としているということはわかりました。
ただ、実態は他の業務も行っていますよね。これも各ハローワークによって異なるのですが、主に3つに分類されます。
職業紹介事業
これは冒頭に述べた一番イメージされるものになります。業務内容は職業相談・紹介業務、求人受理・開拓業務再就職支援業務などなど。
職業紹介というテイにはなっていますが、主に求職者が専用の端末で求人を検索して応募したい求人情報(求人票)を印刷します。(両面)
この求人票には求人番号(5ケタ-7ケタ)と事業所番号(4ケタ-6ケタ-1ケタ)バーコード式で載っていて、現在の求人状況とどのくらいの人が応募しているか(年齢層、性別、照会日等)がハローワークの端末に記録されています。
ちなみに応募したい求人がある場合は、応募の際かもしくは事前に求職者情報を登録する必要があります。窓口で発行の手続きができます。
登録が完了すると求職番号(5ケタ-6ケタ)の載ったハローワーク受付票(A4)が発行されます。
求人の検索のみであれば不要です。
実際に応募する際は職員の方がまだ募集を受け付けているか、求人者の担当へ連絡します。
応募が可能であればその場でハローワークの紹介状を発行してもらえます。
この際、自分の性別や年齢でも応募が可能か窓口の職員を通して確認しましょう。
本当はいけないことなのですが、いまだに女性のみ募集したいと思っている求人者がいたりします。こういう場合、応募しても応募書類の作成等の時間がもったいないです。
「職業紹介事業」なので、求人者と求職者との間のミスマッチを防ぐ必要があるため、ある程度踏み込んで聞いても全然OKです。
紹介状が発行されたら、必要書類を郵送等で求人者に送り、面接という流れになります。
ちなみにハローワークインターネットサービスを利用できる環境であれば、マイページにログインして求職活動状況を見れば、採用か不採用かの情報を見ることが出来たりします。
以前はハローワークの端末で検索したものがインターネットで検索したものがリンクしておらず、結局ハローワークに赴いて求人を探すという状況でしたが、現在はどちらで検索してもほぼ一致するようになっているようです。
わざわざハローワークに行きたくないという人は、所轄のハローワークに電話して求人番号を言えば紹介状をマイページにPDFで送ってくれたりします。
プリンターがある人はこちらも活用するといいでしょう。
その他、シニア向けや、わかもの、障碍者、マザーズなど求職者の属性によってさまざまなサポートを行っているところもあります。
ハローワークでの職業紹介は無料ですので利用できるサービスは是非とも最大限生かしたいですね。
雇用保険
こちらは雇用保険適用、失業認定・給付業務等を行う部門になります。
だいたいのハローワークが雇用保険適用(事業主側)と失業認定・給付業務(受給者側)で受付ブースがわかれていると思います。
事業主側
雇用保険適用については、従業員に関する届出(取得、喪失)、雇用保険新規加入(適用事業所、事務組合、社労士に関わる各種届出)、雇用継続給付(高年齢雇用継続給付、育児休業給付、介護休業給付)の相談・申請があります。
社労士がよく問い合わせする場合はだいたいがこの部署になります。近年働き方改革により労働環境の多様性もあり、どうしてもテキストや書籍だけでは対応できないんですよね。雇用保険の職員は法律や行政手引というものに則って業務をしています。行政の通達はどの書籍よりも早く情報が入るため、実務で困ったときは遠慮なく相談させていただいています。
被保険者、求職者・受給者側
被保険者
被保険者(≒現在働いている方)があまりハローワークに行くことはないと思いますが、是非とも利用するものがあります。それは教育訓練給付の申請です。
現在、職場で資格取得の補助をしたりする会社は減っています。お休みの日や退社後に自己研鑽をしたい場合、外部の教育機関を利用した際の受講料が教育訓練給付制度を利用することで、例えば一般職業訓練であれば受講料の20%(最大10万円)まで支給される可能性があります。
教育訓練給付を利用しても手続するのは全て被保険者自身になりますので、会社に連絡が行くことはありません。郵送物も全て自宅に届きます。
ただし、厚生労働省が指定する教育訓練実施機関でないと利用できませんのであらかじめ対象になるのかどうか調べておくことが必要になります。
求職者・受給者
主に、受給資格の決定(受給期間の延長)、失業の認定、職業訓練相談の相談・申込になるかと思います。
受給資格の決定(受給期間の延長)、失業の認定
これらは職業紹介と併せて行われることが多いですが、どれも重要になります。
重要条文、規則を紹介します。(社労士試験受験生向け)
雇用保険法第15条
第1項 基本手当は、受給資格を有する者(「受給資格者」)が失業している日(失業していることについての認定を受けた日に限る。以下この款において同じ。)について支給する。
第2項 前項の失業していることについての認定(「失業の認定」)を受けようとする受給資格者は、離職後、厚生労働省令で定めるところにより、公共職業安定所に出頭し、求職の申込みをしなければならない。
第3項 失業の認定は、求職の申込みを受けた公共職業安定所において、受給資格者が離職後最初に出頭した日から起算して四週間に一回ずつ直前の二十八日の各日について行うものとする。(以下略)
第4項 受給資格者は、次の各号のいずれかに該当するときは、前2項の規定にかかわらず、厚生労働省令で定めるところにより、公共職業安定所に出頭することができなかつた理由を記載した証明書を提出することによつて、失業の認定を受けることができる。(証明認定)
第5項 失業の認定は、厚生労働省令で定めるところにより、受給資格者が求人者に面接したこと、公共職業安定所その他の職業安定機関若しくは職業紹介事業者等から職業を紹介され、又は職業指導を受けたことその他求職活動を行つたことを確認して行うものとする。
雇用保険法施行規則第19条
第1項 基本手当の支給を受けようとする者(未支給給付請求者を除く。)は、管轄公共職業安定所に出頭し、離職票に運転免許証その他の基本手当の支給を受けようとする者が本人であることを確認することができる書類(当該基本手当の支給を受けようとする者が離職票に記載された離職の理由に関し異議がある場合にあつては、当該書類及び離職の理由を証明することができる書類)を添えて提出しなければならない。(以下略)
2 管轄公共職業安定所の長は、前項の基本手当の支給を受けようとする者が第三十二条各号に該当する場合において、必要があると認めるときは、その者に対し、その者が同号に該当する者であることの事実を証明する書類の提出を命ずることができる。
3 管轄公共職業安定所の長は、離職票を提出した者が、法第十三条第一項(同条第二項において読み替えて適用する場合を含む。次項において同じ。)の規定に該当すると認めたときは、法第十五条第三項の規定によりその者が失業の認定を受けるべき日(以下この節において「失業の認定日」という。)を定め、その者に知らせるとともに、受給資格者証に必要な事項を記載した上、交付しなければならない。
雇用保険法施行規則第22条
第1項 受給資格者は、失業の認定を受けようとするときは、失業の認定日に、管轄公共職業安定所に出頭し、失業認定申告書(様式第十四号)に受給資格者証を添えて提出した上、職業の紹介を求めなければならない。ただし、受給資格者証を添えて提出することができないことについて正当な理由があるときは、受給資格者証を添えないことができる。
2 管轄公共職業安定所の長は、受給資格者に対して失業の認定を行つたときは、その処分に関する事項を受給資格者証に記載した上、返付しなければならない。
まず、離職後に基本給付(世間一般で言う失業給付)を受給するための流れは、
離職後:事業主が資格喪失届(原則離職証明書添付)を作成してハローワークに提出→離職票が元従業員の自宅へ届く
求職の申込み:基本手当を受けようとする者が離職票(+本人確認資料)を持ってハローワークへ行く→受給資格者証が発行される(併せて失業認定申告書が渡される)(則19条)
失業の認定:失業の認定を受けようとする受給資格者は離職後、管轄ハローワークに行き求職の申込みをする。(15条2項)
失業の認定:受給資格者が失業の認定日に失業認定申告書に受給資格者証を添えて職業の紹介を求めるためにハローワークに行く→基本手当日額×日数分が1週間前後で振り込まれる。(則22条)
雇用保険法本則は大枠の仕組み、雇用保険施行規則は主に手続きの流れの詳細を定めているという認識でOKです。
提出者 | 提出書類 | 主な添付書類 | 交付される書類 | |
①離職時(資格喪失の確認) | 事業主 | 被保険者資格喪失届 | 離職証明書 | 離職票 |
②求職の申込み(受給資格の決定) | 基本手当の支給を受けようとする者 | 離職票 | 本人確認資料 | 受給資格者証 (失業認定申告書) |
③失業の認定(28日ごとに1回) | 受給資格者 | 失業認定申告書 | 受給資格証 | 次回の失業認定申告書 |
職業訓練相談の相談・申込
別で記事にしようと思います。
おわりに
場所によって行っている業務の範囲や名称は異なるのですが、大まかには今回ご紹介した内容をメインに行っています。
離職した際は何度か訪れなくてはいけないのですが、働いている間であっても教育訓練給付を利用する場合などはお世話になる場所になります。
お住まいの管轄のハローワークはどこにあるかだけでも知っておくとよいでしょう。
受験生には最後におまけとして問題をご用意しましたので、ぜひ挑戦してみてください。
問題
①受給資格者は、失業の認定を受けようとするときは、失業の認定日に、管轄公共職業安定所に出頭し、正当な理由がある場合を除き離職票に所定の書類を添えて提出した上、職業の紹介を求めなければならない。(平成25年 雇用保険法 問2 肢A)
⇒×(失業認定申告書に受給資格者証を添えて職業の紹介を求める。受給資格者ということはすでに手元には離職票はないはずです。(則22条1))
②基本手当を受けようとする者は失業の認定日に失業認定申告書に受給資格証を添えて管轄の公共職業安定所に出頭し職業の紹介を求める。(オリジナル)
⇒×(基本手当を受けようとする者を受給資格者に直すと正しい。基本手当を受けようとする者はまだ受給資格を有していないので受給資格者証を発行してもらう手続きが必要になります。(則22条1項))
③失業の認定は、求職の申込みを受けた公共職業安定所において、原則として受給資格者が離職後最初に出頭した日から起算して4週間に1回ずつ直前の28日の各日について行われる。(平成27年 雇用保険法 問7 肢A)
⇒〇(第15条3項の通り)
コメント