【実務上重要】常時50人の以上の従業員を使用する企業の壁

税金・社会保険・労働関係

こんばんは、kanariyaです。

本日は従業員を50人以上にすると発生する義務やコストについてお話しします。
常時50人といえば、本ブログではこの記事で少し触れましたね。2024年から常時50人以上を使用する事業主は継続して2か月を超えて使用される見込みがあるものは短時間労働者であっても社会保険に加入することになるということをご説明しました。

社会保険において、この常時50人というのが会社の経営に関して一つ重要に重要な意味をもたらすものになります。この常時50人という文言をとても意識している法律が労働安全衛生法になります。労働安全衛生法は昭和47年に制定されたもので、「職場における労働者の安全と健康を確保」するとともに、「快適な職場環境を形成する」目的で制定された法律です。また、その手段として「労働災害の防止のための危害防止基準の確立」、「責任体制の明確化」、「自主的活動の促進の措置」など総合的、計画的な安全衛生対策を推進するとしています。

「常時50人以上の労働者を使用している」となるとわが国ではそれなりの規模の企業として認識されるようになり、社会的責任も求められる立場になることを意味します。労働安全衛生法は労働基準法から独立して定められた法律であり、労働者を使用する企業の安全、衛生面を主として規定した重要な法律となっています。
それでは、常時50人以上の企業に求められるものは何かをご説明していきます。ちなみに常時50人にはパート・アルバイト等も含みますのでご注意ください。

スポンサーリンク

産業医の選任

産業医とは、医師のうち労働者の健康管理を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件も備えた医師のことをいいます。(法第13条第2項)
一般の医師というだけではなく、産業医科大学を卒業した医師や、労働衛生コンサルタント試験合格者、大学において労働衛生に関する科目を担当する教授等が要件になります。
ここで注意ポイントがあります。産業医の選任について、事業者が法人の場合には当該法人の代表者、法人でない場合には事業を営む個人、事業場においてこの事業の実施を統括管理する者以外から選任するように決められています。つまり、事業場が医療法人などで産業医の選任が必要な医療機関の場合、院長や理事長、施設長などはその事業場の産業医として認められないということです。これは、労働者の健康衛生において、身内での杜撰な管理になる恐れを回避するためにあります。

一般の事業所の場合、産業医を直接雇用することはまずないでしょうから、業務委託契約でお願いすることになりますが、月にだいたい5万円~10万円前後が相場になるようです。月契約が多いのは、産業医は毎月1回作業場等を巡視義務や、衛生委員会(後述)に出席してもらうためです。年間70万円~120万円の支出は結構痛いですよね。
また、事業者は産業医を選任したときは14日以内に労働基準監督署に報告書を提出しなければなりません。

衛生管理者の選任

職場において労働者の健康障害を防止するため、常時50人以上の労働者を使用する事業者は都道府県労働局長の免許を受けた者(その他厚生労働省令で定める資格を有する)を専属の衛生管理者として選任しなければなりません。(法第12条第1項)衛生管理者は、労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関することや労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関することが求められます。
衛生管理者の選任は産業医ほどハードルの高いものではありません。都道府県労働局長の免許とは簡単に言うと国家試験のことで、公益財団法人安全衛生技術試験協会によって行われます。全国7ブロックに分けられた各センターによって毎月数回ほど開催されています。試験自体はなじみのない化学薬品や覚えることも多いですが、市販のテキストと過去問題をきちんとこなせばそれほど難しくはありません。

が、この試験の辛いところは試験会場が原則上記各7つのセンターで行われることです。私は関東安全衛生技術センターで受験した経験がありますが、この施設が千葉県の五井というところにあるんですよね。当時の私の家から約2時間ほどかかったと記憶しています。ですのでもし不合格ならまたここまで来ないといけないのかという試験自体とは別のプレッシャーを抱えながら受験した記憶があります。
なお、年に何回か出張特別試験というものがあり、そちらで受験していただいても問題ありませんが、申し込み開始からすぐに埋まってしまうため、計画的に受験勉強をする必要があります。第一種と第二種がありますが、個人的には危険有害業務を学べる第一種をおススメします。

衛生委員会の実施

衛生委員会は事業の種類を問わず、常時50人以上の労働者を使用する事業場において設置しなければならない義務があります。そのうちのメンバーに上記の産業医が含まれます。ですので産業医による事業場の巡視とともに衛生委員会が開催されるように設定されることが多いです。
衛生委員会では、労働者の健康障害を防止するための対策、健康の保持増進を図るための対策、労働災害の原因及び再発防止対策で、衛生に関すること等を審議します。(法第18条)
このご治世ですと新型コロナウイルス対策について議題にあがることが多いように感じます。
ちなみに、衛生委員会の設置、開催状況等を記載した報告書等について、所轄労働基準監督署長への報告義務はありませんが、議事の概要を労働者に周知し、3年間議事録の保存をしなければなりません。なお、衛生委員会の会議の開催に要する時間は労働時間とされているため、賃金の保障が必要になりますので、所定労働時間内に行うようにしてください。

定期健康診断の報告義務

労働安全衛生法では労働者の健康の保持増進のために健康診断をするように求めています。これはその業種によっていくつか種類があるのですが、その中に全業種に実施しなければならない一般健康診断というものがあります。(法第66条第1項)
この一般健康診断について法附則第44条で、事業者常時使用する労働者に対して1年以内ごとに1回定期に医師による健康診断を行わなければならない旨が記載されています。これをいわゆる定期健康診断と言ったりしますが、常時50人以上の労働者を使用する事業者は定期健康診断を行ったときは、遅滞なく「定期健康診断報告書」を所轄労働基準監督署に提出しなければなりません。(法規則第52条)
定期健康診断報告書は様式第6号というものがあり、その様式に決まった健康診断項目がありますので必要事項を記入して提出します。
なお、あくまで常時50人以上を使用する事業者は所轄労働基準監督署長への報告義務が発生するというものであり、常時50人未満を使用する事業者であっても定期健康診断自体は行う必要がある点には注意してください。

ストレスチェックの報告義務

ストレスチェック制度は平成26年法改正により設けられた制度で、医師、保健師、厚生労働大臣が定めるものを終了した看護師又は保健師によって行われる、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止するための心理的面の健康診断のことをいいます。そして、こちらも定期健康診断と同じく、常時50人以上の労働者を使用する事業者は1年以内ごとに1回、定期的に「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」を遅滞なく定期健康診断報告書を所轄労働基準監督署に提出しなければなりません。(法規則第52条の21)
心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書は様式第6号の2というものがあり、その様式に実施した者や面接指導えお実施した医師等を記入して提出します。 定期健康診断報告書もですが、どちらの様式にも産業医の署名欄がありますので忘れずに記載してもらいましょう。
なお、あくまで常時50人以上の労働者を使用する事業者は所轄労働基準監督署長への報告義務が発生するというものであり、常時50人未満の労働者を使用する事業者であってもストレスチェック自体は行う必要がある点には注意してください。 (ただし、常時50人未満の労働者を使用する事業所においては、当分の間、ストレスチェックの実施は努力義務とされています。これらの事業所では、産業医及び衛生管理者の選任並びに衛生委員会等の設置が義務付けられていないため、ストレスチェック及び面接指導を実施する場合は、産業保健スタッフが事業場内で確保できないことも考えられることから、産業保健総合支援センターの地域窓口(地域産業保健センター)等を活用して取り組むことがができます。
また、 常時50人未満の労働者を使用する事業所はストレスチェック助成金の助成対象になりますので気になる方は調べてみてください。

まとめ

コロナ禍で規模を縮小せざるを得ない会社もあれば、コロナ禍に関係なく勢いを見せている会社もあります。あくまで人事労務的に言うと、労働者が49人と50人では少なくともこれだけやることが増え、時間やコスト、労力が発生します。

パートタイマーやアルバイトを多く雇用して正規社員を減らすと逆にこのような状況になる可能性もあります。会社の方針や経営戦略などの理由でそのようにしているならともかく、社会保険料の負担を減らしたいなどの節税効果を期待した結果、例えば産業医を選任しなくなるなどの結果になってしまったら意味ないですよね。

ひとまず、「労働者数が50人」ということは人事労務上一つの分岐点になりますのでこれだけは覚えておいて損はないと思います。
また、経営者の立場ではなく労働者の方の場合、衛生管理者の資格を取得することをオススメします。上記に述べたように衛生管理者は常時50人以上使用する事業場には必置の資格だからです。転職等でそこまで有利になるわけではないですが、「必置資格」というのは法律が要求していることですから、いわゆる一種のパワーワードです。(不動産業では宅建士など。)もちろん、社会保険労務士受験予定の方にも科目が一部重複するので是非おススメします。

それでは本日もご覧いただきましてありがとうございました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました