【マインドセット】承認欲求とコミュニケーションの重要性

ビジネス・マネジメント

「承認欲求」という言葉は今は当たり前のように使われていますが、個人的には比較的最近耳にした方も多いと思っています。

広辞苑には「他者に自分の存在を認めてもらいたい、あるいは自分の考え方を受け入れてもらいたい、という欲求をさす。」とあります。

「承認欲求」と聞くとマイナスのイメージが浮かんでしまう時があります。これは一時期流行にもなった「インスタ映え」が背景にあるように思います。

「承認欲求」という言葉自体は以前から存在していた言葉であることは、アメリカの心理学者のアブラハム・マズローによる自己実現理論(欲求5段階説)のひとつとして有名ではあります。この理論によると「他人から認められたい」「自分を価値のある存在として認めたい」という思いは正常な欲求のひとつであるとされています。

人間関係において承認欲求というのはマイナスに働くときもあればプラスの面にはたらくこともあるでしょう。適切なコミュニケーションにより、良好な人間関係を築くためには相手の個性を理解し、尊重することが効果的な手段のひとつです。

今回は、同志社大学政策学部教授太田肇氏の研究結果と著書を基に、ビジネスにおいてコミュニケーションを図る上で大切なことをお伝えしたいと思います。

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承認欲求の持つ力

承認欲求は自己実現欲求や達成欲求などに比べて注目されることは少なかった。それは、承認欲求と関連の深い名誉欲、出世欲、自己顕示欲などのような俗っぽいイメージがあり、日本人の感情としてなじみにくいものと思われているようにも思える。

それでも、大概の人は現実には名誉や出世のために陰で努力している人は多いし、他人から何らかの形で認められたいと思うものです。そして、実際に褒められたり認められたりするとさまざまな効果がが現れることが分かっている。

太田教授が複数の企業等に協力を仰ぎ行ったプロジェクトによると、上司から意識的に部下を褒めてもらうようにしたところ、モチベーション、自己効力感、雹か・処遇に対する満足度などが高くなることが判明しました。また、別の企業の営業担当者を対象にした研究ではそのグループの営業成績が平常通りのグループに比べて顕著に高くなったという。

また、うつや燃え尽き症候群などのメンタル不調に陥るリスクを減らす効果があると認められた研究結果もある。

承認欲求の活かし方

承認欲求に働きかけることで組織の活性化を図る方法として以下のような取り組みが考えられます。

認められる仕組みをつくる

仕事の裁量範囲を広で自分の名前で仕事をさせる

匿名で仕事をさせると手抜きや力の出し惜しみが起きやすい傾向にあるといいます。一方自分の名前が表に出ることで自分の名誉のために努力しようとします。

実際に、自分の名が入った製品や記事は成功につながるとした事例があります。社内文書には可能な限り署名を入れるようにし、職場での優れた企画やアイデアも、だれの発案かを記録や明治をするべきであり、そのためには仕事の裁量範囲を広げることが必要であるように思えます。

仕事を「見える化」する

集団やチームで行う仕事などは個人の成果や貢献度を明確にできないケースも多くみられます。それでも仕事を「見える化」すれば、一人ひとりの貢献度や働きぶりが認められる。例えば、社内のウェブに一人ひとりの担当する仕事と進捗状況、参加しているプロジェクトと果たしている役割などを明記する。現在は、リモートワークなどが浸透していることもあり、誰でも見られる業務管理ツールなどが多く提供されている。これらも有効に活用すると業務の効率化にもつながる。

表彰制度を活用する

太田教授によれば表彰制度は次の3タイプに分類されるという。

顕彰型

特別に高い業績を上げた人、チーム、組織などに対して功績を称えることであり、「社長賞」「特別功労賞」などといった名称で用いれられることが多い。

権威のある表彰であり動機づける力は大きく、それだけに機会の平等と選考プロセスの透明性が求められます。所属先による不公平を解消するために各部署から候補者を推薦する方式や、選考の公平性を確保するために各部署から選考委員を選任するといった方法が考えられます。

奨励型

目立たなくてもコツコツと努力している人や、陰で組織を支えている「縁の下の力持ち」讃える者である。評価のされにくい努力や貢献にスポットを当てることで陰日向なく努力すればいつかは報われるという安心感や信頼感を社員に与えられる。

HR (Human Relation)型

チームで競争したり、ゲーム性を取り入れたりすることで職場の人間関係を良くしたり、組織の活力を高めることを目標とするものである。また、顧客アンケートの結果や届いた感謝の声などに基づいて社員を表彰している会社もある。

このタイプは、若手社員やパート、アルバイトを多数雇用している業種や体育会系の組織で取り入れていることが多く見受けられる。

仲間同士のコミュニティをつくる

承認欲求とは日常における同僚同士のコミュニケーションのなかでも自然に満たされることが多い。ところが、近年のテレワークの普及により、日常であったお互いのコミュニケーションが不足していく傾向がみられる。そこで、メンバーが出社した日にはともに食事をしたり、簡単なパーティーを開いたりして雑談の場を設けることが効果的である。実際に取り組んでいる企業も増え始めています。

上手に褒める、上手に認める

承認欲求を満たす最も一般的な方法は褒めたり認めたりすることである。しかし、その方法が的確でないと効果がないどころかかえって逆効果になる場合があるの注意が必要である。太田教授は良い効果をもたらすためにいくつかのポイントを挙げている。

具体的・客観的な事実に基づいて褒める

承認の目的は相手に自分の長所、能力、貢献などを認識させることだといいます。したがって、数字や具体的な事実などに基づいて褒める、あるいは昨年と比べてどれだけ成長したか、努力の成果が表れたかを知らせると良いです。なお、客観性という観点から、顧客や別の部署の人、上位の役職者などの第三者からのポジティブな評価を本人に伝えるのも効果的です。

適切なタイミングを心がける

同じ褒めるにしても、良い仕事をしたとき、成果が表れたとき、即座に褒めるのが望ましいと言えます。ただし、相手の成長に応じて少しずつ間を取り、また数度に一度褒めるようにするなどの工夫が必要になります。それによって行動基準が内面化され適度な承認依存を防ぐことができます。

褒めにくい相手には「虫の目」で褒める

相手によっては褒めたくてもどこを褒めてよいかわからない場合があります。そうであっても相手をよく観察すればどこかに良いところが見つかるはずです。いわゆる「虫の目」で褒めるところを探すのです。些細な点であっても褒められた相手が自信をつけ成長のきっかけになすケースは少なくないでしょう。

相手がノっているときは褒めるより認める

仕事に集中しているときに褒められたら関心が褒められることに移り、かえってモチベーションを低下させる場合があります。これを防ぐために、相手がノっているときは褒めるより認める感覚で接することが望ましいと言えます。例えば、信頼して仕事を任せてみたり、アイコンタクトで承認のメッセージを送るなどをするとよいでしょう。逆に相手が自信を失っているときこそ褒めると効果が大きいと言えます。

相手のタイプに合わせる

人前で褒められると気を良くしてますます努力する人もいれば、逆に恥ずかしさや嫉妬を恐れる気持ちから褒められるのを嫌って努力することを恐れる人もいます。対象の人がどういうタイプの人なのは、普段からしっかりと観察することが重要と言えます。

努力と能力の両方を褒める

能力を褒めると慢心したり、失敗して周囲から評価が下がることを恐れて挑戦をしなくなったりする恐れがあります。そのため、能力より努力を誉める方が良いといわれる。しかし、太田教授の調査によると、日本人は自己肯定感や自己効果感が低いという結果が出ています。つまり、自分の能力に自信が持てない人が多いといいます。よって、努力だけでなく能力も褒めることが望ましいと言えます。ただし、現在の実力よりも潜在的能力、すなわち「やればできる」力を持っていると伝えることが重要となります。

小道具を使う

褒めることが大切だと頭ではわかっていても、いざ実行するとあると照れやプライドなどがあってなかなか実行することが難しい場面も往々にしてあります。そこで役立つのがメールやカード、スマートフォンのアプリといった小道具を使うことです。社長が社員一人ひとりに褒めるメールを送っている会社や、社員同士が誉め言葉や感謝の言葉を記したカードを送りあっているところもあるようです。さらに送られたメッセージをポイント化し、蓄積されたポイント数に応じた商品を受け取れる仕組みを導入している会社もあるといいます。

承認の弊害には気をつける

承認することは組織のマネジメント、ひいては会社全体に影響をもたらすということはなんとなくわかるとは思います。ただし、その一方で、その弊害も無視できないほど大きいことが明らかになっているとされています。

ます、容易に想像できることは褒められるために頑張る主客転倒ですが、それ以上に危険なのが「期待を裏切ってはいけない」、「褒められ続けなければならない」といった意識が芽生え、それがときに意欲の低下、過剰なストレス、メンタル不調といった副作用ももたらすことです。

ある会社で工場の視察に訪れた社長が現場で黙々と仕事をしている若い従業員に対し、「期待しているから頼むよ」と声をかけました。すると、声をかけられた従業員は、毎朝早く出勤し頑張って働くようになりました。ところがしばらくすると、ストレスからメンタル不調に陥り会社に出社してこなくなりました。また別の会社では表彰を受けた若手社員が短期間のうちにつぎつぎと辞めてしまったことが起こっていたと言います。

太田教授が行った学生に対するアンケートで「他人から認められたり、社会的に評価されたりしたことがプレッシャーにになった経験はあるか」と質問したところ、3分の1の学生が「ある」と答えたそうである。「先生に褒められると最初は張り切って勉強したが、だんだんと褒められるために勉強していると感じるようになり、やらされ菅で成績も落ちていった」や、スポーツで「監督の期待を一身に集め、それに応えようとして体調を崩した」というようなケースがたくさん述べられていた。

では、このような弊害を防ぐためにはどのように対処すればよいのでしょうか。

具体的に褒める、認める

前述したとおり、相手が過剰に重く受け止めないためには、何がどれだけ優れているかを具体的に示すことがじゅうようになってくる。

期待の重荷を下ろす道を用意する

教員の世界では、いったん管理職に就いた人が責任を果たせないと感じたと場合は、自ら降職する制度を取り入れているところがある。自ら降職したのであればプライドが傷つかず周囲の目もそれほど気にしなくて済むという。

失敗体験を積ませる

失敗したことがない人は、失敗し挫折をしたときにどのように立ち直ればよいかわからず必要以上に失敗を恐れる傾向にある。そのためリスクを避け、積極的にチャレンジしない傾向が窺える。それを防止するためには早い段階から困難な目標に挑戦させ、失敗体験を積ませておくことが大切である。成功体験と失敗体験の両方を数多く積ませることで自分の実力がわかるようになり、失敗を恐れず前向きにチャレンジできるようになるという。

双方向の承認を取り入れる

褒める人と褒められる人が固定化すると上下関係が強くなり期待に応えなければならないというプレッシャーが強くなりやすい。そこで部下から上司に感謝の労いのメッセージをおくるなど、双方向の承認が行われる仕組みを作ると効果的である。

終わりに

承認欲求は極めて大きな潜在的エネルギーを秘めています。したがって、承認欲求にうまく働きかければ、企業の生産性の向上や離職抑制などに効果があるだけでなく、社員のワークエンゲージメントを高め、職場の空気や人間関係を良くしたりする効果も期待できます。

職場に限らず、人間関係は一日や二日でどうにかなるものではありません。また、自分だけが心がけていても仕方がありません。

その組織の関係者すべての人が自分以外の他人に関心を持ち、自分だけでなく相手の行動や気持ちを慮る必要があります。忙しいときや辛いときは視野が狭くなりがちですが、こういう状態にならないように、普段から周囲のことを考えられる習慣を身につけなければならないのだと改めて感じさせられました。

参考

・太田肇著『承認とモチベーション-実証されたその効果-』同文館出版(2011年)
・同『子供が伸びるほめる子育て-データと実例が教えるツボ-』ちくま新書(2013年)
・同『「承認欲求」の呪縛』新潮新書(2013年)

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