同一労働同一賃金について前回まではメトロコマース事件、大阪医科薬科大学事件の簡単な概要を紹介しました。繰り返しにはなりますが、今回も同一労働同一賃金がどういうものなのかをご認識いただいている前提として進めますのでまだご覧になられていない方は先にこちらをお読みください。
概要と争点
本件は、日本郵便株式会社との間で有期労働契約を締結して勤務し、または勤務していた時給制契約社員または月給制契約社員である原告らが、無期労働契約を締結している正社員と原告らとの間で、年末年始勤務手当,祝日給,扶養手当,夏期休暇及び冬期休暇等の手当に相違があったことは旧労働契約法20条に違反するものであったと主張し、日本郵便に対して損害賠償請求を求めたものです。(前回の2つは賞与及び退職金でしたね。)
本件について、最高裁判決を見る前にこの事件は元々は3つの訴訟(それぞれ東京、佐賀、大阪)だということをお伝えしなければいけません。またすべての件が控訴がされて(それぞれ東京、福岡、大阪)、その後最高裁にて同時に判決がなされています。
そのため今回は、下級審(地裁及び高裁)のみ簡単に触れることにします。(下級審の裁判例を全て目を通すだけでも時間がかかってしまい、短くまとめるにも限界がありました^^;)
※だいたいポイントは同じですので明日以降に紹介する予定の最高裁の判断の部分だけを見ていただいても構いません。
第一審(東京地裁平成29年9月14日)
郵便外務事務又は内務事務のうち特定の定型業務に従事する時給制契約社員が、旧人事制度上の旧一般職のうち役職のない正社員及び新人事制度上の新一般職(正社員)との間に不合理な労働条件の相違(外務業手当、年末年始勤務手当、早出勤務等手当、祝日給、夏期年末手当、住居手当、夏期冬期休暇、病気休暇(私傷病の場合の有給)、夜間特別勤務手当、郵便外務業務精通手当、郵便内業務精通手当の支給)があるとして、それぞれの支給につき定めた就業規則が適用される労働契約上の地位にあることの確認と、正社員との賃金の差額を不法行為による損害として請求した。
結論 一部認容、一部棄却
※手当設定の理由、時給契約社員への類似手当の支給状況等を踏まえ、個別に判断した上で、
不合理である→ 年末年始勤務手当(正社員の8割)、住居手当(正社員の6割)、夏期冬期休暇、病気休暇(私傷病の場合の有給)
不合理とは言えない→ 外務業手当、早出勤務等手当、祝日給、夏期年末手当、夜間特別勤務
手当、郵便外務業務精通手当、郵便内業務精通手当
第二審(東京高裁平成30年12月13日)
第一審原告らにより控訴。
結論 原審判決一部変更 それ以外は棄却
東京地裁の判断を概ね支持。(認容された手当の金額のみ変更、主位的請求は棄却。)
第一審(佐賀地裁平成29年6月30日)
郵便の配達業務等に従事していた時給制契約社員(期間雇用社員)が正社員との間で
不合理な労働条件の相違(基本賃金、通勤手当、非番日の割増率、祝日給、早朝・夜間
の勤務、賞与、作業能率評価手当、外務業務手当・営業手当・年末年始勤務手当、特別
休暇)があるとして、正社員との差額を不法行為に基づく損害として請求した。
結論 棄却
正社員と期間雇用社員との間には、従事する業務の内容、それに伴う責任の程度及び職務の内容及び配置の変更の範囲に大きな相違があるものと認められる。
→不合理とは言えない。(上記東京地裁平成29年9月14日における夏期冬期休暇(特別休暇) の判断が異なる。)
第二審(福岡高裁平成30年5月24日)
第一審原告らにより控訴(及び附帯控訴。)
結論 棄却
佐賀地裁の判断を概ね支持。
第一審(大阪地裁平成30年2月21日)
郵便物の集配等の郵便外務業務に従事する時給制契約社員や月給制契約社員が、正
社員との間に不合理な労働条件の相違(外務業務手当、郵便外務業務精通手当、年末年
始勤務手当、早出勤務等手当、祝日給、夏期年末手当、住居手当、扶養手当、夏期冬期
休暇、病気休暇(私傷病の場合))があるとして、それぞれの支給につき定めた社員就業規
則の各規定が適用される労働契約上の地位にあることの確認と、正社員に支給される手
当との差額を不法行為による損害として請求した。
結論 一部認容、一部棄却
不合理である→ 年末年始勤務手当(全額)、 住居手当(全額)、扶養手当(親族の生活を保障するものであり、職務内容によって必要性が大きく左右されないから。)
不合理とは言えない→ 外務業手当、早出勤務等手当、祝日給、夏期年末手当、夜間特別勤務
手当、郵便外務業務精通手当、郵便内業務精通手当
判断せず→ 夏期冬期休暇、病気休暇(私傷病の場合)
第二審(大阪高裁平成31年1月24日)
第一審原告らにより控訴。
結論 一部変更、一部棄却
大阪地裁の判断を概ね支持。
※年末年始勤務手当、祝日給、夏期冬期休暇、病気休暇について、労働契約を更新し通算で5 年を超えた場合に、5 年を超える部分のみが不合理な相違に当たるという条件を付けた。(契約更新が繰り返され契約通算期間が長期間(5年)に及んだ場合にまで上記相違を設けることは不合理と認められた。)
ひとまずまとめ?
冒頭にも申し上げましたが全てを触れることはできないのでかなり絞りました。(元々広げすぎると私のブログの趣旨とも外れてしまいますし。)
一言で「手当」と言っても今回のように種類が多い場合、その制度の創設の主旨などを一つ一つ見ていくのがかなり大変です。
しかし、弁護士の先生、裁判官ってホントに大変なお仕事だと改めて感じました。裁判例を読んでいるだけでも疲れましたよ。
それでは本日もご覧いただきましてありがとうございました。
コメント