【判例】同一労働同一賃金の動向③~各論~ メトロコマース事件

税金・社会保険・労働関係

同一労働同一賃金について前回は大阪医科薬科大学事件の簡単な概要を紹介しました。今回も同一労働同一賃金がどういうものなのかをご認識いただいている前提として進めますのでまだご覧になられていない方は先にこちらをお読みください。

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概要と争点

本件は、東京メトロと有期労働契約を締結していた契約社員(職種限定社員を含む)が、無期労働契約を締結している正社員との間で、退職金等(住宅手当、早出残業に対する割増率など)に相違があったことは、旧労働契約法20条に違反するものであったとして、東京メトロに対し損害賠償を求めました。
(※なお、本件は原告が4名おり、それぞれ勤務年数や在職中、退職済みと各々立場が違うの方がいますが、正社員か契約社員A(職種限定社員)及び契約社員Bの2種類の計3者が登場人物ご認識いただければ結構です。)

第一審(東京地裁平成29年3月23日)

結論 請求棄却(但し早出残業手当の一部の未払分については支払い義務あり)

・無期雇用職員を正職員、職種限定職員については職種限定職員、有期雇用職員を有期雇用職員として異なる就業規則を設け、賃金その他労働条件について異なる扱いをしている。
正社員及び契約社員Aには、職種転換、配置転換、代務業務(休暇等で販売員が不在となった店舗にて臨時で早番、遅番との業務を行うこと)、出向等を命じられることがあり、正当な理由がない限りは拒むことができないが、契約社員Bには業務の場所について変更が命じられる場合はあったものの、業務の変更はなく、配置転換や出向等が命じられることはなかった。
・また,正社員は、複数の売店を統括し、その管理業務等を行うエリアマネージャーの業務に従事することがあるのに対し、契約社員Bがエリアマネージャーに就くことはない。
・正社員に対する賃金や福利厚生を手厚くし、有為な人材の確保・定着を図るという人事施策上の判断には一定の合理性が認められる。

第二審(東京地裁平成31年2月20日)

結論 東京メトロの控訴棄却(原判決一部取消し)

・ 退職金は、東京メトロ側が主張する有為な人材の確保・定着を図る趣旨だけでなく、長年の功労に対する報償の側面もある。
・有期労働契約とはいえ原則として契約が更新され定年が65歳と定められており、原告らは10年前後勤務しており、契約社員Aについて職種限定社員として無期契約労働者となるとともに退職金制度が設けられたことなどを考慮する必要がある。
・少なくとも長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金(退職金の上記のような複合的な性格を考慮しても、正社員と同一の基準に基づいて算定した額の少なくとも4分の1はこれに相当すると認められる。)すら一切支給しないことについては不合理といわざるを得ず、旧労働契約法20条にいう不合理と認められる。

最高裁(令和2年10月13日)

結論 原告側の上告棄却

・業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度については第一審を支持し、 職種転換、配置転換、代務業務、出向等を命じられることがあり、契約社員Bとの間に庶務区の差があることを改めて強調。
・退職金の支給の差が、不合理になる場合があることは認めた上で、原則として契約の更新がされ、定年が65歳と定められているため必ずしも短期雇用を前提としていたとはいえず、現に原告の2人は10年前後の勤続期間を有していることを斟酌しても、両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは、不合理であるとまで評価することができるものとはいえない。
・なお、契約社員Aは平成28年4月に職種限定社員に改められ、その契約が無期労働契約に変更されて退職金制度が設けられたものの、このことがその前に退職した契約社員Bである第1審原告らと正社員との間の退職金に関する労働条件の相違が不合理であるとの評価を基礎付けるものとはいい難い。
・また、契約社員Bと職種限定社員との間には職務の内容及び変更の範囲に一定の相違があることや、契約社員Bから契約社員Aに職種を変更することができる前記の登用制度が存在したこと等からすれば、無期契約労働者である職種限定社員に退職金制度が設けられたからといって、上記の判断を左右するものでもない。

補足意見・反対意見

林景一裁判官の補足意見

・退職金制度を持続的に運用していくためには、その原資を長期間にわたって積み立てるなどして用
意する必要があるから、退職金制度の在り方は、社会経済情勢や使用者の経営状況の動向等にも左右されるものといえる。
・そうすると、退職金制度の構築に関し、これら諸般の事情を踏まえて行われる使用者の裁量判断を尊重する余地は比較的大きいものと解する。
・企業等が職務の内容等の相違の程度に応じて均衡のとれた処遇を図っていくことは、旧労働契約法20条を引き継いだパートタイム・有期雇用労働法第8条の理念に沿うものといえる。
・退職金に相当する企業型確定拠出年金制度 、個人型確定拠出年金制度の導入、その他有期契約労働者に対し在職期間に応じて一定額の退職慰労金を支給することなども考えられる。

宇賀克也裁判官の反対意見

・正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1に相当する額すら契約社員Bに支給しないことが不合理であるとした原審の判断は是認することができ、第一審被告の上告及び、第一審原告らの上告はいずれも棄却されるべき。
・正社員と契約社員Bの職務の内容等を考慮して、退職金に係る労働条件の相違が不合理と評価することができるかどうかを検討すべきものとする判断枠組みを採ることには異論はないが、
・売店業務に従事する正社員(売店業務に従事する正社員は、互助会において売店業務に従事していた者と、登用制度により正社員になった者とでほぼ全体を占めていた)と契約社員Bの職務の内容や変更の範囲に大きな相違はない。

まとめ

旧労働契約法第20条の見解についてはほぼ異論はありません。また、退職金制度についても複合的な意味(職務遂行能力や責任の程度などを踏まえた労務の対価の後払い的性質、継続的な勤務に対する功労報償的性質等)についても同様です。

問題なのは、「正社員」、「契約社員」、「アルバイト」といった契約体系での区別ではなく、事態に即した判断が必要になるところですね。

ちなみに余談ですが、本件に携わった宇賀克也裁判官と林道晴裁判官は、先日行われた最高裁判所裁判官国民審査の11人のうちの対象となっていました。宇賀先生は学者出身で行政法、個人情報保護の第一人者ですのでご存じの方もいるかもしれませんね。

それでは本日もご覧いただきましてありがとうございました。

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