同一労働同一賃金について前回の続きになります。まだご覧になられていない方は先にこちらをお読みください。(なお、本来の判例ではわかりにくい法律用語が出てきますが、私のブログは専門家向けではなく、初心者の方や実務に携わっている方向けに発信しておりますので、難しい単語は読みやすいように今後は本来の意味を逸脱しない程度に変換します。)
概要と争点
本件は、学校法人大阪医科大学(現大阪医科薬科大学、以下「大学側」とします。)と期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」とします。)を締結して勤務していた元アルバイト職員(以下「元職員」とします。)が、期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」とします。)を締結している正職員と元職員との間で、①賞与、②業務外の疾病(以下、「私傷病」とします。)による欠勤中の賃金等に相違があったことは、労働契約法20条(現在は削除済み)に違反するものであったとして、大学側に対し損害賠償を求めました。
第一審(大阪地判平成30年1月24日)
結論 請求棄却
・無期雇用職員を正職員、有期雇用職員をアルバイト職員として異なる就業規則を設け、賃金その他労働条件について異なる扱いをしているのであるから、両者の相違は期間の定めの有無に関連して生じたものである。
・賞与は月額賃金を補うものとしての性質を有していると認められる。正職員に対して賃金の一定の割合を賞与として特定の時期にまとめて支給することは、長期雇用が想定されかつ有期労働契約とは異なる職務内容等を担っている正社員の雇用の確保等に関するインセンティブとして一定の合理性がある。一方、アルバイト職員は正社員と同様のインセンティブが想定できず、雇用期間が一定ではないことから賞与算定期間の設定等が困難である。
第二審(大阪高裁平成31年2月15日)
結論 一部変更(原判決取消し)
・賞与は基本給にのみ連動するもので、年齢・成績・被告の業績にも連動しておらず、 在籍し就労していたことへの対価としての性質があるから、正職員と同期間就労していたアルバイトに全く支給しないことは不合理といえる。ただ、正職員への賞与は雇用の確保等という趣旨があること、アルバイトの功労は正職員より相対的に低いことからすると、 正職員の支給基準の60%は認めるべき。(本件は正職員、元職員の雇用形態であるアルバイト契約のほかに契約社員という雇用形態の者もおり、それらの者には正職員の支給基準の80%支給していた。)
・フルタイム勤務で契約期間を更新している元職員に対して、私傷病による欠勤中の賃金支給を一切行わないこと、休職給の支給を一切行わないことは不合理というべきである。
最高裁(令和2年10月13日)
結論 原判決変更(その余棄却)
・正職員に対する賞与の性質やこれを支給する目的を踏まえて、教室事務員である正職員とアルバイト職員である元職員の職務の内容等を比較考慮すれば、正職員に対する賞与の支給額がおおむね通年で基本給の4.6か月分であり、そこに労務の対価の後払いや一律の功労報償の趣旨が含まれることや、正職員に準ずるものとされる契約職員に対して、正職員の支給基準の約80%に相当する賞与が支給されていたこと、アルバイト職員である元職員に対する年間の支給額が平成25年4月に新規採用された正職員の基本給及び賞与の合計額と比較して55%程度の水準にとどまることを斟酌(しんしゃく:事情を汲み取ること)しても、教室事務員である正職員と元職員との間に賞与に係る労働条件の相違があることは、不合理であるとまで評価することができるものとはいえない。
・正職員の職務はアルバイトの職務に加えて、学術誌の編集業務、病理解剖に関する遺族への対応等があり、職務の内容に明確な相違があった。
・私傷病の休業補償は、 正職員の雇用の確保等を前提とした制度である。賞与に関する判断で挙げた各事情に加えて、アルバイトは長期雇用を前提として勤務を予定していると言い難いことから、 休業補償制度の趣旨が直ちに妥当するものではないので不合理とは言えない。
まとめ
最高裁は原審(一つ前の判決のことを言います、つまりここでは大阪高裁)を一部認容した上で、有期労働契約を締結している元職員に対する①賞与②私傷病の休業補償の不支給について、いずれも不合理な待遇であるとは言えないとしました。
2020年3月31日までは旧労働契約法第20条がまだ存在していて、かつ旧パートタイム労働法も存在していたわけで、ともに旧法が適用されていますからややこしいと言ったらありゃしないですね。
実務にもたらす影響を検討することが重要なのですが、この裁判以外にもあと2つご紹介したい判例がありますので、そちらをみてから私なりの意見を交えつつまとめたいと思います。(今回の事件の争点は賞与と私傷病にかかる休業補償であり、いずれも争点が異なりますので。)
それでは本日もご覧いただきましてありがとうございました。
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