「人を育てる」上で重要なことはなんでしょうか。ビジネスの場面でも、家庭環境でも構いません。
残念ながら、これについての確実な答えはないと思っています。
ただし、こうすれば間違った方向にはならないよという答えはあります。
その手段のひとつとして用いられるのがコーチングです。
今回は特別な物も道具も必要なく今すぐ実践できるコーチングについてお話ししたいと思います。ただ、すべてをお話しするととんでもない量になるので、今回は覚えてほしいことを絞って解説していきます。
そもそもコーチングとは?
コーチング(Coaching)とはシンプルに訳すと「教える、指導する、訓練する」といった意味になりますが、野球などのスポーツのコーチのイメージをしていただければわかりやすいでしょうか。
ただ今回のコーチングを説明するにあたりもう少し実用的に訳すなら、「相手の能力を引き出しながらやる気を促す対話の方法」と言えます。近頃はコーチングについて多くの考え方があり、本屋さんに行けばたくさんもの本が並んでいるのをよく見かけます。令和の時代になっても対人スキルに関する需要はあるということでしょうか。
どの書を見ても表現はさまざまですが重要な点は①やる気、②促す、③対話にあると思っています。
「やる気を促す」とは?
やる気を促すとは、「自らの意思で『やってみよう』と思える意欲」を指します。
大切なのは「やらせる」のではなく、「やってみたい」、「やってみよう」と相手が自分から進んで行動するように思ってもらうようにすることです。
人は感情的な生き物ですから、プライベートにおいて親しい間柄であればわかりやすいかもしれませんが、ビジネスのような緊張している場面であっても表に出ていないだけで必ず「感情」というものはその人のどこかに内在しています。
人は相手が誰であれ、「やらされている」と感じると逆にやりたくなくなる傾向にあるようです。
例えば上司から「やれ」って言われると、上から目線で失敗したら次はないんだろうなという印象を抱きます。一方、「やってみようか」、「やってごらん」という言い方にすると、上からではなく同じポジションで考えてくれているなという印象を持ちます。そして、失敗してもその後フォローしてくれるんじゃないかと部下は期待します。
「対話」とは?
対話とは、「聞いて、受け止めて、尋ねる」ことの一連の動作のことを言います。
実はこれが一番シンプルですが一番難しく、出来ているケースは少ないように思えます。ですがコーチングにおいて最も重要なポイントだと思っています。
私も日ごろから意識的に「対話」をするようにしていますが、あとになってあのときもっとこうするべきだったなと思うことは多々あります。
では、実際によくある失敗例を見てみましょう。
そもそも聞いていない
一番多いのはそもそも聞いていないから対話になっていないパターンです。
何か別の作業をしながら聞いている「フリ」をしている、相手と正対していない、相槌やリアクションがないなど様々ありますが、これらの共通点はそもそも聞く姿勢になっていないことです。
相手は何か言いたいことや相談したいことがあって話しかけているのに、聞く側の耳が塞がっていてはまともなコミュニケーションを行うことは不可能です。
受け止めていない
とりあえず聞く姿勢はできているとして、次に気をつけるのは受け止めることです。
相手が何か言っているけれど自分が返事をすることに集中してしまい、結果相手の言いたいことを汲み取れずに、話はしてみたけれど解決していないまたはトラブルが発生したりすることにつながります。
これはコミュニケーションが苦手な人に多い印象ですが、相手が話してくれたことに対して何か返事をしなきゃとか話さなきゃと思いがちなんですけど、実は何もせずに聞いてくれる人が一番コミュニケーションが上手だったりします。特別なにかしてくれたわけではないのにこの人に話すとなんかスッキリするなという人は身近に何人かいらっしゃいませんか。
こういう人って相手が話しているときに自分は何も発していないんです。ただジッと聞いているんです。内心では「それは違うでしょ」と思うことがあってもとりあえず最後まで話させてあげる。全部を拾う必要はありませんがきっとこういうことが言いたいんだろうなということをイメージしています。
その結果、次の「尋ねる」というステップを無意識にスムーズに行うことが出来ています。
尋ねていない
では、相手の言いたいことがしっかり聞けたとしましょう。ここで、そのあとすぐにに自分の意見を一方的に言ってしまってはせっかく今までお話ししてくれた時間がパーとなります。相手によっては話さなければよかったと思うこともあるでしょう。
そうならないためには、「ちゃんと聞いたよ」ということを相手に意思表示してあげなければなりません。
例えば、「○○さんの言いたいことは△△ということで合ってますか?」という確認の意思表示や「○○さんの言うことはよくわかったよ」などの同調の意思表示など、話している最中の相槌や話し終わった後の一言に、聞いて理解したよというメッセージを送りましょう。ビジネスの場合ではこの後に具体的なアドバイスをしなければならない場合が多いかと思いますが、そうでない場合はこちらが特別何かしなくても話すだけで満足する人もいます。最初から具体的なアドバイスはもとめておらず聞いてほしいだけのパターンにありがちですね。
よく人間は聞くより話をしたがる生き物と言います。そしてコミュニケーションは話したがりの人間同士のやりとりですから、一方は聞き役に徹する必要があります。上手なコーチングはその聞き役に徹することが出来るかどうかにかかっているという言い方もできます。
ティーチングとの違い
ここで少し脱線しますが、よくコーチングと比較される考え方としてティーチング(Teaching)があげられます。コーチングとは相手の自主性を尊重し、その人の成長を促すことを指し支援型のスタンスを取りますが、ティーチングは主体がティーチャー(教える側)にあり、指示・命令型のマネジメント方法になります。
ひとつ気をつけていただきたいのが、コーチングが良くてティーチングがダメということではないということです。コーチングが有効な場面とティーチングが有効な場面があり、それをうまく使い分けることが大事になってくるということです。
まとめ
今回はコーチングの超基礎の基礎をお話ししました。まず人を育てる上において円滑なコミュニケーションを心がける必要がありますが、そのためのベースとして「相手の能力を引き出しながらやる気を促す対話の方法」が大切で、その中でも「対話」ができる環境づくりが一番重要だということです。
ちなみに今回の記事を書くにあたって参考にした「目からウロコのコーチング」の著者である播磨早苗氏によると、コーチングとは「会話によって相手の優れた能力を引き出しながら前進をサポートし、自発的に行動をすることを促すコミュニケーションスキル」と定義しています。
この先社会がIT化に向かい、人との交流が少なくなるかもしれませんが、それでも人との交流が全くなくなるかと言われるとそうではありません。
むしろ機会が減少するからこそ、その少ない機会で得られるものを逃さないようにしてくために良いコミュニケーションスキルを身に付け、人材育成につなげていく必要があるのかなと思っています。
参考
・播磨早苗著「目からウロコのコーチング―なぜ、あの人には部下がついてくるのか?」(PHP研究所)
・鈴木義幸著「新 コーチングが人を活かす」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
コメント