人はいつか必ずしぬときが来ます。その際に今まで築き上げてきた資産等は自分以外の誰かに引き継ぐことになります。その際のルールや税金について学ぶ章になります。
相続税の計算方法だけでなく贈与税の計算、法定相続割合など細かい数字も出てくるためやや難易度は高いですが、自分自身だけでなく、家族や親戚を含めたすべての人に役立つ分野ですので着実にマスターしましょう。
注意
※合格に必要なところだけをピックアップ。とにかく試験に合格したい方向け。(主に学科対策。)
※2021年10月1日時点の法令を根拠とする。
贈与の意義と形態(重要度★★★★☆)
贈与契約とは
贈与者が自分の財産を受贈者に無償で与えるという意思表示をし、受贈者がそれを受け入れる契約。(両者の合意が必要。)口頭でも書面でも可能。
贈与の取消し
口頭による贈与契約
贈与契約は原則履行されたときに効力を発生するため、当事者のいずれかが取消しをすることができる。ただし、すでに実行された贈与契約は取り消すことができない。
※停止条件付贈与(結果発生が不確定な一定の事実(条件)成就まで法律効果の発生を停止させる契約)の場合は条件が成就したときに効力が発生する。
(例:FP技能士試験に合格したら自転車をプレゼントするなど。)
書面による贈与契約
贈与契約の効力があったときに取得する。契約の効力が発生した時点から取消しができない。
贈与の種類
定期贈与
定期的に給付を行う贈与。
(例:毎月10万円プレゼントするなど。)
負担付贈与
一定の財産を贈与する前提として一定の債務を負わせる贈与。
(例:1,000万円分の土地を譲る代わりに500万円のローンも負担してもらうなど。)
死因贈与
贈与の発生時期が、贈与者の死亡による贈与。双方の合意が必要。一方、遺贈とは遺言による一方的な意思表示によって財産を譲ること。
(例:自分が亡くなった場合に土地を譲るなど。)
死因贈与は契約あくまで贈与だが、贈与の時期は贈与者の死亡後なので贈与税は課せられず、相続税の対象になる。
贈与税の課税財産・非課税財産(重要度★★☆☆☆)
贈与税の課税財産
本来の贈与財産
贈与によって譲り受けた財産で金銭として見積もることができるもの。現金、預金、株式、土地、家屋など。
みなし贈与財産
贈与という形式ではないが、受けた行為によって贈与と同じような経済的利益が生じる場合は、贈与を受けたとみなされて課税の対象となる。信託財産、生命保険金、低額譲渡(時価よりも著しく低い金額での譲渡)、債務免除など。
ただし、低額譲渡による利益は時価との差額がみなし贈与財産となるケースがある。
(例:子が父から時価300万円の株式を50万円で譲り受けた場合など。)
贈与税の非課税財産
法人からの贈与財産
贈与者が法人の場合に、受贈者は贈与税がかからない。しかし、その法人と個人に雇用関係がある場合は給与所得、雇用関係がない場合は一時所得となる。どちらにしても個人の所得として扱われるので所得税及び住民税の対象になる。
扶養義務者からの生活費・教育費
扶養義務者から受ける通常必要とされる金銭などには課税されない。
(例:親から子への仕送りなど。)
離婚の財産分与によって受け取った財産
婚姻中の生活費や収入などと比べて財産分与の額が過大な場合はその部分が贈与とみなされる。
相続開始前の贈与
相続人の死亡によって相続や遺贈があったとき、その相続開始前3年以内(開始年を含む)に被相続人からの贈与により取得した財産には贈与税はかからないが相続税がかかる。
その他
・社会通念上必要と認められるもの(香典、見舞い、祝い物など)や、公共事業用財産などは贈与税はかからない。
・使用貸借(無償で貸し借りを行うこと)の場合にも贈与税等はかからない。
贈与税の計算と納付(重要度★★★★☆)
暦年課税
贈与税の基礎控除
1年間に贈与された財産の合計額から基礎控除額110万円を差し引いた額に贈与税がかかる。取得した財産の合計が110万円以下の場合は贈与税は課されず申告書の提出も不要。贈与者が何人いたとしても基礎控除額は110万円。
計算方法
課税価格の計算
本来の贈与財産にみなし贈与財産を加え、非課税財産を差し引く。
贈与税額の計算
課税価格から基礎控除(や配偶者控除)を差し引いて税率をかける。
贈与税額=(課税価格-110万円)×税率
直系尊属からの贈与・特例税率の適用
直系尊属(両親や祖父母など)から贈与を受けた者は特例税率を適用して税額を計算する。ただし、贈与を受ける者が20歳以上の場合に限る。
贈与税の配偶者控除
一定の条件に該当する配偶者は、居住用不動産(またはその購入資金)を贈与された場合、その課税額から基礎控除の他に2,000万円を控除することができる。(合計2,110万円の控除。)
条件
婚姻期間が20年以上で翌年3月15日までにそこに住み始め、引き続き居住する見込みなどがある。
後述する相続時精算課税制度の2,500万円と混同しないように。
贈与税の配偶者控除に金額、婚姻期間は「2」がつく。「第1章.ライフプランニングと資金計画『健康保険の任意継続被保険者』」、「第4章.タックスプランニング『所得税の申告・納付』」と併せて覚えよう。
相続時精算課税制度
相続の一部を前倒しして行う制度。
贈与時
1人の贈与者から贈与された財産について2,500万円までが非課税となる。2,500万円を超えた部分については一律20%の贈与税がかかる。
相続時
贈与者が死亡した場合、相続時精算課税制度による贈与財産の価額(贈与時の価額)と相続財産の価額を合計して相続税を計算し、すでに納付した贈与税額を差し引いた金額を相続税として支払う。
適用者
60歳以上の父母または祖父母(贈与者)から20歳以上の子または孫(受贈者)。
手続き
受贈者は贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までの間に贈与税の申告書にその旨の届書を添付して提出する。
注意点
・相続時精算課税制度を選択した場合、暦年課税を受けられなくなる。(直系尊属から住宅取得資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税と併用可。後述。)
・相続時精算課税制度で土地を贈与した場合は、「小規模宅地等の特例」を受けられなくなる。
・贈与税の配偶者控除は同じ配偶者からの贈与については一生に一度しか適用できない。
贈与税の納付方法と納付期限
納付方法
申告書の提出期限までに金銭一括納付が原則だが、一定の条件下では例外として延納が認められている。物納は不可。
申告・納付の期限
贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までに受贈者の住所の管轄の税務署にて手続きを行う。
所得税の申告納付期限(2月16日から3月15日)より半月早いことに注意しましょう。
贈与税の延納
下記の条件をすべて満たした場合に認められる。
①贈与税額が10万円超
②現金で一括納付できない金銭的な理由がある
③原則として不動産などの担保を提供する
④延納期間は5年以内
⑤納付期限までに延納申請書を提出し税務署長の許可を得る
直系尊属からの住宅資金贈与・非課税特例
一定の要件(20歳以上、前年の合計所得金額2,000万円以下など)を満たした者が、直系尊属から住宅取得のための資金の贈与を受けた場合、1,000万円(消費税ありの場合)または500万円(消費税なしの場合)の贈与税の非課税枠が(年110万円の基礎控除または相続時精算課税制度の2,500万円の非課税枠に上乗せして)ある。なお、「良質な住宅(省エネ等住宅)」に該当すれば、非課税枠がさらに500万円上がる。
暦年課税や相続時精算課税制度との併用が可能である。
直系尊属からの教育資金贈与・非課税特例
前年の合計所得金額1,000万円以下の者が直系尊属から教育資金の贈与を受けた場合、受贈者1人あたり1,500万円の非課税枠を利用できる。学校等以外に支払う場合には非課税枠は500万円が限度である。
贈与を受ける者は30歳未満に限る。また、30歳到達時に残高があっても「学校等に在学」または「教育訓練給付金の対象訓練を受講」している場合は贈与税は課税されないが、これらの状況が解消された後の年末(または40歳に達した場合)に残高があれば贈与税が課税される。
※なお、受贈者が23歳以上の場合は「学校等に支払われる費用及び関連費用(留学渡航費等)」、「教育訓練を受講するために支払われるもの」に対象範囲が限定された。
直系尊属からの結婚・子育て資金贈与・非課税特例
前年の合計所得金額が1,000万円以下の者が直系尊属から結婚・子育て資金の贈与を受けた場合、受贈者1人当たり1,000万円の非課税枠を利用できる。結婚費用の場合、非課税枠は300万円までが限度。贈与を受ける者は20歳以上50歳未満に限る。
相続の開始と相続分(重要度★★★★☆)
相続の開始
被保険者の一身専属性のある財産(例:年金受給権等)は相続の対象とならない。
養子縁組制度による相続
普通養子縁組
養子と実父母との法律上の親子関係は消滅しない。
⇒実父母及び養父母が被相続人となった場合、双方の相続人となる。
特別養子縁組
養子と実父母との法律上の親子関係は消滅する。
⇒養父母が被相続人となった場合のみ相続人となる。
普通養子縁組と特別養子縁組の細かな違いは覚えなくていいので、実父母が被相続人となった場合に相続権があるのかないのかだけ覚えること。
相続人の範囲と順位
法定相続人
民法上に規定されている相続人の範囲のこと。法定相続人は配偶者、子、直系尊属、兄弟姉妹に限定されている。
相続人の順位
配偶者は常に相続人とされ第一位は子、第二位は直系尊属、第三位は兄弟姉妹。上の順位に該当者がいない場合には次順位者が相続人となる。
欠格と廃除
相続欠格
故意に被相続人、または相続について先順位もしくは同順位にある者を死亡させ、または死亡させようとしたために刑に処せられた者。
被相続人の遺言の妨害(偽造・変造・破棄・隠匿等)行為をした者。
相続廃除
被相続人において特定の相続人に相続させたくないような事情がある場合に、被相続人が家庭裁判所に請求して(遺言による廃除請求も可能)、家庭裁判所の審判または調停によってその相続人の相続権を失わせる制度。
どちらも相続権は失われる。
代襲相続
相続発生時に子がすでに死亡している場合や相続欠格、相続廃除によって相続人の権利を失っている場合にその子(孫)が相続を受けること。なお、相続人が相続放棄した場合はその子による代襲相続は認められない。
相続分
指定相続分
遺言によって指定された相続分のこと。法定相続分より優先されるため、本来相続人とならない者にも相続人としての権利を与えることができる。
法定相続分
民法が定める相続分のこと。
相続順位 | 法定相続人と法定相続分 |
第一順位(子)がいる場合 | 配偶者:2分の1 子:2分の1(これを子の人数分で按分する) |
第二順位(直系損族)がいる場合 | 配偶者:3分の2 直系尊属:3分の1(これを直系尊属の人数分で按分する) |
第三順位(兄弟姉妹)がいる場合 | 配偶者:4分の3 兄弟姉妹:4分の1(これを兄弟姉妹の人数分で按分する) |
※実子と養子、嫡出子と非嫡出子の区別によって相続人の順位、相続割合に影響はない。
※離婚した夫婦に子がいた場合、この相続権は残り、後妻との子と取扱いは変わらない。
試験では親族関係図が示され、実際の法定相続分を求める問題や、具体的な金額を計算させる問題が出題されます。後述する遺留分の場合の法定相続分と併せて出題されることもあるため、過去問でしっかりと対策しましょう。
遺言と遺留分(重要度★★★★☆)
遺言は、遺言者の死亡のときからその効力を生ずる。
遺言の方式
j自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | 秘密証書遺言 | |
作成方法 | 本人が全文、年月と氏名を自筆で書き押印する | 本人が口述し、公証人が筆記する | 本人が遺言書に署名押印後、公証人役場で手続き |
場所 | 自由 | 公証人役場 | 公証人役場 |
署名捺印 | 本人 | 本人、公証人、証人(遺言者本人は実印) | 本人、公証人、証人 |
家庭裁判所の検認 | 必要 | 不要 | 必要 |
証人 | 不要 | 証人2人以上 | 公証人1人、証人2人以上 |
※自筆証書遺言の場合、相続財産の目録等は手書きでなくてもよいが、全頁に署名捺印が必要。
遺言の取消し・変更
作成した遺言はいつでも自由に取消、変更することができる。変更する際は、前の遺言と同じ方式にする必要はない。また、遺言者が遺言の主旨と抵触する行為をした場合も取消しとみなされる。
遺留分
一定の相続人に対して、遺言によっても奪うことのできない遺産の一定割合の留保分のこと。兄弟姉妹には遺留分はない。
兄弟姉妹には遺族厚生年金の受給権もないことをここで改めて一緒に覚えてしまいましょう。(第1章.「ライフプランニングと資金計画『公的年金』」)
遺留分の割合
相続人が直系尊属のみの場合:法定相続分の3分の1
上記以外の場合:法定相続分の2分の1
遺留分の侵害額請求権
遺留分を主張して侵害された額に相当する金銭の支払いを請求する権利のこと。相続開始及び遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったときから1年で消滅する。また、相続開始のときから10年経過することによっても消滅する。
相続の承認と放棄(重要度★★☆☆☆)
単純承認
無条件で相続財産を継承すること。相続の開始を知ったときから3ヵ月経過した場合、相続人は単純承認をしたものとみなされる。
限定承認
相続財産の範囲内で被相続人の債務を引き継ぐこと。相続の開始を知ったときから3ヵ月以内に家庭裁判所に「限定承認申述書」を共同相続人全員で提出しなければならない。
相続放棄
被相続人の相続を拒絶すること。相続の開始を知ったときから3ヵ月以内に家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出しなければならない。なお。相続放棄は各相続人が単独で行うことができる。
相続の承認と放棄の3種類は全て3ヵ月です。権利関係を早期に安定させる趣旨でもあります。
相続税の課税財産・非課税財産(重要度★★☆☆☆)
相続税の課税財産
本来の相続財産
相続や遺贈により取得した財産で、金銭として見積もることができるもの。
みなし相続財産
相続や遺贈により取得した財産と同じとみなされたときに相続税が課される財産。死亡後3年以内に支給額が確定した死亡保険金や死亡退職金などがある。(下記非課税枠あり。)
相続開始前に被保険者から贈与を受けた財産
被相続人から相続や遺贈によって財産を取得した者が、相続を開始した年から遡って3年以内に被相続人から贈与によって取得した財産については、贈与により取得したときの価格で相続税が課税される。なお、その際に贈与税を納付している場合はその納税額が相続税から差し引かれる。
相続税の非課税財産
死亡保険金・死亡退職金
相続人が生命保険金(被相続人が保険料を納付していたもの)や死亡退職金(被相続人の死後3年以内に支給が確定したもの)を受け取った場合は、それぞれについて下記の式で求めた金額が非課税となる。
非課税限度額=500万円×法定相続人の数
※相続放棄をした相続人がいた場合は放棄がなかったものとした場合の法定相続人の数とする。また、被相続人に養子がいた場合、法定相続人に含められる養子の数は限度がある。(実子がいる場合、養子は1人まで、実子がいない場合は2人まで。)
なお、相続人以外の人が死亡保険金を受け取った場合も相続税の課税対象額となるが上記の非課税枠はない。
弔慰金
相続人が会社から受け取る弔慰金は、業務外の死亡の場合は普通給与の6ヵ月分、業務上の死亡の場合は普通給与の3年分が非課税となる。
債務控除及び葬式費用
相続または遺贈により財産を取得した場合、相続税の計算のおいて、債務及び葬式関連費用は原則として財産価値から控除することができる。
対象となるもの
借入金、未払医療費、未払所得税、葬式費用など
対象とならないもの
初七日や法事などの費用、香典返戻費用、墓地買入未払金、税理士費用など
その他
墓所、仏壇、仏具、香典(金額の多寡は問わない)は非課税財産とされている。
贈与税の課税財産・非課税財産とセットで覚えよう。
相続税の計算(重要度★★★★☆)
相続税の課税遺産総額の計算(ステップ1)
全ての相続財産の課税価格の合計額から、以下の基礎控除額を差し引き、課税遺産総額を算出する。
遺産に係る基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
※相続放棄をした相続人がいた場合は放棄がなかったものとした場合の法定相続人の数とする。また、被相続人に養子がいた場合、法定相続人に含められる養子の数は限度がある。(実子がいる場合、養子は1人まで、実子がいない場合は2人まで。)
死亡保険金の非課税限度額の500万円と混同しないように。
注意点
・基礎控除額の計算における法定相続人の数、相続に放棄があった場合であっても、その放棄はなかったものとみなして計算する。
・代襲相続人も法定相続人として数に含める。
「相続税の総額」の計算(ステップ2)
「相続税の総額」の計算においては、各相続人の実際の相続分にかかわらず「各人が法定相続分を取得した」と仮定して計算し、その金額を合算する。
※ここでいう「相続税の総額」は実際の総額とは異なる。
各人の納付税額の計算(ステップ3)
上記「相続税の総額」を、各相続人の実際の取得割合に応じて按分し、各人の(調整前)税額を算出する。そして、各個別事情に応じて加算・減算し、各人の納付税額を算出する。
加算の例
・相続税の2割加算:財産を取得した人が兄弟姉妹や孫(子の代襲相続人を除く)など、被相続人の配偶者や一親等の血族でない場合、算出税額の20%が加算される。
減額の例
・配偶者の税額控除:配偶者の法定相続分までは相続税がかからず、法定相続分を超える相続をしても1億6,000万円までは相続税がかからない。婚姻期間の制限はない。申告書の提出は必要。
贈与税の配偶者控除と異なり、婚姻期間(20年以上)の要件はない。また、内縁の妻は認められない。
・贈与税額控除:相続開始3年以内に、被相続人による贈与を受け、すでに贈与税を納付している場合はその贈与税額を相続税額より控除できる。
・未成年者控除:相続人が未成年の場合には、原則その未成年者が「18歳に到達するまでの年数1年につき10万円」で計算した額がその未成年者の相続税額から控除される。
未成年者控除額=(18歳-相続開始年齢)×10万円
相続税の申告と納付(重要度★★★☆☆)
相続税の申告書の提出
相続の開始を知った日の翌日から10ヵ月以内に、被相続人の死亡時における住所地の所轄税務署長に申告書を提出しなければならない。相続税の課税価格の合計が遺産に係る基礎控除以下の場合は申告に必要はないが、配偶者の税額軽減などの特例の適用を受ける場合には申告の義務がある。
納付期限
申告書の提出期限と同じく10ヵ月以内。原則金銭による一括納付。(一定の要件のもとで延納、物納の可能。)
延納
納税の期限を延長できる制度。
・金銭による一括納付が困難で、納付すべき相続税総額が10万円超かつ延納申請書を提出して税務署長の許可を得ていること。
・原則として担保の提供が必要。
物納
不動産など、金銭以外で納税できる制度。
・金銭による一括納付が困難で、さらに延納によっても金銭で納付することが困難である場合に、納付期限までに物納申請書を提出し、税務署長の許可を得ていること。
・物納できる財産は、相続や遺贈によって取得した財産。(抵当権などの担保権が設定されている等の事情がある不動産を除く。)
贈与税は物納による納税は出来ないが相続税は可能。
相続財産の評価【不動産】(重要度★★★★☆)
相続財産のとしての宅地の評価方法
宅地の評価は1筆ごとではなく、1画地(利用の単位となっている1区画。2筆以上の宅地からなる場合もある。)ごとに行われる。所在する地域によって、路線価方式、倍率方式のいずれかにより評価する。
路線価方式
宅地が面している道路の路線価を基準としてその宅地の状況や形状などを考慮したうえで最終的な価格を計算する方式。
相続税評価額=路線価×奥行価格補正率×地積(土地の面積)
路線価図では、路線に面する標準的な宅地1㎡当たりの土地評価額が1,000円単位で記載されている。例えば、「300C」とある場合は1㎡当たりの価額が300,000円であることを表す。また数字の後ろのアルファベット(AからG)は借地権割合を示している。
記号 | A | B | C | D | E | F | G |
借地権割合 | 90% | 80% | 70% | 60% | 50% | 40% | 30% |
倍率方式
郊外にある土地には路線価が付いていないため、対象となる宅地の固定資産税評価額に国税局長が定めた一定の倍率を乗じて額を計算する。
小規模宅地等の評価減の特例
相続または遺贈によって取得した宅地について、通常の評価額から一定の割合を評価減する特例。
相続する土地の種類 | 減額が適用される条件 | 限度面積 | 減額割合 |
【住宅用】 特定居住用宅地 | ・配偶者 ・同居の親族がその後も居住 ・別居の家族が取得して住む | 330㎡ | 80%減 |
【事業用】 特定事業用宅地・特定同族会社事業用宅地 | 相続人が事業(家業)を受け継ぐこと | 400㎡ | 80%減 |
【貸付用】 駐車場や賃貸マンションなどの貸付事業用宅地 | 相続人が貸付事業を継続すること | 200㎡ | 50%減 |
※被相続人が相続発生直前まで居住用、事業用、不動産貸付用のいずれかにしていたことが要件。また、相続人は今後その宅地を引き続き同様に利用していくことが要件となる。
配偶者は無条件でこの特例を受けられる。(保有要件等不要。)
宅地の分類と評価
自用地
借地権などの権利や制限がない宅地のこと。自宅の敷地、空き地、青空駐車場、自分の事業所などが該当する。
借地権
借地権が設定されている土地の借主側の権利分のこと。
借地権の評価額=自用地評価額×借地権割合
貸宅地
借地権が設定されている土地の貸主側の権利分のこと。
貸宅地の評価額=自用地評価額×(1-借地権割合)
貸家建付地
宅地所有者が建物を建てて貸し付けている(アパートを経営している等)場合の宅地。
貸家建付地の評価額=自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
建物の分類と評価
自用家屋
自ら使用する建物の評価額は、固定資産評価額そのまま。
自用家屋の評価額=固定資産税評価額×1.0
貸家
貸付用に供されている建物のこと。
貸家評価額=固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)
相続財産の評価【金融資産】(重要度★★★☆☆)
預貯金の評価
定期預金などの正確な相続税評価額は以下の式で算出する。
預金残高+(解約時の既経過利子の額-源泉所得税相当額)
※普通預金など、利子がわずかな場合は預金残高で評価する。
生命保険契約に関する権利の評価
相続開始時において継続している保険契約(保険料を被相続人が負担している場合)の契約者としての権利を生命保険契約に関する権利という。その評価は、相続開始時に解約した場合の解約返戻金の額になる。
上場株式の評価
上場株式は、以下の4つの価額のうち最も低い価額で評価する。
①課税時期の終値
②課税時期の属する月の毎日の終値の平均額
③課税時期の属する月の前月の毎日の終値の平均額
④課税時期の属する月の前々月の毎日の終値の平均額
相続財産の評価【取引相場のない株式】(重要度★★☆☆☆)
取引相場のない株式の評価
未上場株式が相続財産となった場合の評価方法は原則と特例の2つがある。原則的な評価方式には類似業種比準方式、純資産価額方式、併用方式の3つがあり、特例的評価方式には配当還元方式がある。
株式の取得者が経営支配権を持つ者(同族株主等)の場合には原則的評価方式となり、そうでない場合は特例的評価方式となる。
会社規模の判定方法
原則的評価方式が適用される場合は、その会社を3つの基準(従業員数、総資産価額、売上高)により、大会社、中会社、小会社に区分する。なお、従業員数100人以上の会社は大会社になる。大会社なら類似業種比準方式、小会社なら純資産額方式、中会社なら併用方式による評価方式となる。
評価方法
類似業種比準方式
事業内容が似ている業種の上場企業の株価と比較して、自社株の株価を算出する方法。類似業種の平均株価を基に、1株当たりの配当、利益、純資産の各要素を上場会社とその評価会社とで比較して算出する。
純資産価額方式
1株当たりの純資産価額を株価とする方法。まず、会社の財産をすべて現金に換え、債務を全て返済した後に各株主に1株当たりいくら分配できるか、その分配予想額を評価額とする。
併用方式
類似業種比準方式と純資産価額方式により算出した額のそれぞれに一定の割合をかけて株価を算出する方法。
配当還元方式
過去の配当実績を基礎として評価額を計算する方法。
特定評価会社
純資産のうち、一定水準以上の割合で株式や土地を保有している場合は特定評価会社となる。この場合、評価方式は純資産価額方式に限定される。なお、同族株主等以外の株主については、特定評価会社に該当しても配当還元方式で評価する。
この章の復習
問題
個人が法人からの贈与により取得した財産については原則として贈与税の課税対象となり所得税は課されない。(2020年9月学科)
⇒×(法人からの贈与は原則として所得税や住民税の対象となる。)
問題
子が父の所有する土地を無償で借り受け、その土地の上に建物を建築した場合、父から子への借地権の贈与があったものとして贈与税の課税対象となる。(2017年5月学科)
⇒×(土地の使用貸借は、地代がかからないので借地権の価値がゼロであり、贈与税の課税対象にはならない。)
問題
贈与税の配偶者控除は、婚姻期間が( ① )以上である配偶者から居住用不動産の贈与または居住用不動産を取得するための金額の贈与を受け、所定の要件を満たす場合、贈与税の課税価格から基礎控除額とは別に( ② )を限度として控除ができるものである。
1)①15年 ②2,000万円
2)①20年 ②2,000万円
3)①20年 ②2,500万円 (2020年1月学科)
⇒2)(贈与税の配偶者控除は「2」という数字がポイント。)
問題
暦年課税による贈与税の計算において、同年中に父と母からそれぞれ贈与を受けた場合の基礎控除額は220万円(110万円×2)である。(2015年1月学科)
⇒×(受贈者ごとに110万円が限度となる。)
問題
住宅取得等資金として両親から資金の贈与を受けた場合、「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税」の適用と併せて、相続時精算課税制度の適用を受けることはできない。(2016年5月学科)
⇒×(直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税の特例は相続時精算課税制度と併用して適用を受けることができる。)
問題
相続人が相続により取得した宅地が「小規模宅地等のについての相続税の課税価格の計算の特例」における貸付事業用宅地等に該当する場合、( )を限度面積として評価額の50%を減額することができる。
1)200㎡
2)240㎡
3)300㎡ (2015年1月学科)
⇒1)(小規模宅地等の評価減の特例においては240㎡、300㎡という数字は登場しない。)
問題
相続人が相続により取得した宅地が「小規模宅地等のについての相続税の課税価格の計算の特例」における特定事業用宅地等に該当する場合、( ① )を限度面積として評価額の( ② )を減額することができる。
1)①400㎡ ②50%
2)①330㎡ ②80%
3)①400㎡ ②80% (2017年9月学科)
⇒3)( 2)は特定居住用宅地の評価、1)の組み合わせはない。)
問題
賃貸アパート等の貸家の用に供されている家屋の相続税評価額は、( )の算式により評価される。
1)自用家屋としての評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)
2)自用家屋としての評価額×(1-借地権割合×賃貸割合)
3)自用家屋としての評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合) (2020年9月学科)
⇒1)( 3)は貸家建付地の評価、2)の組み合わせはない。)
問題
取引相場のない株式の相続税評価において、同族株主以外の株主等が取得した株式については、特例的評価方式である配当還元方式により評価することができる。(2019年1月学科)
⇒〇(同族株主か否かがポイントとなる。)
問題
取引相場のない株式の相続税評価について、類似業種比準方式における比準要素には、「1株当たりの配当金額」。「1株当たりの利益金額」、「1株当たりの純資産価額」がある。(2018年5月学科)
⇒〇(類似業種比準方式とくれば、配当、利益、純資産の3つに注目する。)
問題
取引相場のない株式の相続税評価において、同族株主等の取得した株式は、原則的評価方式である( ① )や( ② )、あるいはそれらの併用により同族株主以外(非同族株主など)の者が取得した株式は、特例的評価方式である( ③ )により評価する。
1)①配当還元方式 ②類似業種比準方式 ③純資産価額方式
2)①類似業種比準方式 ②配当還元方式 ③純資産価額方式
3)①類似業種比準方式 ②純資産価額方式 ③配当還元方式 (2007年5月学科)
⇒3)(特例的評価方式は配当還元方式であることから③に入る言葉から考えていく。)
参考
FP3級ドットコム:ホームページ
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