2022年4月から文部科学省が定める教育課程の基準である「学習指導要領」の改訂で、金融商品による資産形成という視点を学校教育に盛り込むことが求められるようになります。
なぜこのタイミングなのか金融庁によると以下のような意図が伺えます。
成年年齢の引き下げ
同日から成人年齢が20歳から18歳に引き下げられます。18歳を迎える前に高校生への金融・消費者犯罪被害の防止に向けた教育を行い、トラブルを防止しようとする目的があります。
将来を見据えたライフプランの検討
生涯を見通した生活設計のため、ライフプランにあった金融商品・サービスを選択する際の金融リテラシーの向上が重要となってきます。「金融リテラシー調査」(2019年、金融広報中央委員会)によれば、金融教育を行うべきと考える者のうち、学校等において金融教育を受ける機会があったとの回答は8.5%にとどまっていました。国民一人一人が安定的な資産形成を実現し、自立した生活を営む上では、金融リテラシーを高めることが重要である一方で、そのための機会が必ずしも十分とは言えない状況が続いていました。
諸外国と比較した場合の金融リテラシー水準
同調査によると、国際的にみても、日本の金融リテラシーの水準は決して高いとは言えない状況にあると報告しています。特に、「複利」、「インフレ」、「分散投資」について、イギリス、ドイツ、フランスと比較すると金融知識の関する設問の正答率の低さが目立ちます。(アメリカも調査対象になっています。)
単利と複利について
設問①
100万円を年率2%の利息がつく預金口座に入れました。それ以外、この口座への入金や出金がなかった場合、5年後、口座の残高はいくらになっているでしょうか。利息にかかる税金は考慮しないでご回答ください。
1.102万円より多い
2.ちょうど102万円
3.102万円より少ない
設問②
では、5年後には口座の残高はいくらになっているでしょうか。利息にかかる税金は考慮しないでご回答ください。
1.110万円より多い
2.ちょうど110万円
3.110万円より少ない
いかがでしょうか。
設問①について、正答率は日本69%、イギリス57%。ドイツ64%、フランス57%です。
一方設問②について正答率は日本44%、イギリス52%。ドイツ47%、フランス54%です。
設問①よりも②のほうが難しく感じているのはどの国も同じようですが、正答率の差を見ると日本とドイツが軒並み低くなっているのが伺えます。
インフレについて
設問
高インフレの時には、生活に使うものやサービスの値段全般が急速に上昇する。
1.正しい
2.間違っている
いかがでしょうか。
正答率は日本62%、イギリス80%。ドイツ87%、フランス87%です。
どうした日本。確かに今はデフレの状況とはいえ、Why Japanese people!?と言われても対抗できません。
分散投資について
設問
1社の株を買うことは、通常、株式投資信託を買うよりも安全な投資である。
1.正しい
2.間違っている
いかがでしょうか。
正答率は日本47%、イギリス52%。ドイツ60%、フランス75%です。
日本人は浮気はしない一途でピュアな性格の持ち主と言うことにしておきましょう。
「金融リテラシー調査」というものは自体は2016年に初めて大規模に行われました。
その調査の結果をアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスで行われた同等の調査と比較したところ、日本人の金融知識は諸外国と比べてかなり低かったことが判明してしまったわけです。
少子高齢化の進行
私の扱うブログのテーマの大半がこのワードに関係するのですが、少子高齢化によって、公的年金や社会保険制度の基盤がぐらついていることも挙げられます。これは政府がCM等で国民年金基金やiDeCoなどの情報を有名芸能人を使ってPRしているように、老後の資金は公的年金だけではなく自助努力で何とかしてくださいというメッセージでもあります。
では高校生は授業で何を学ぶのか
日本の学校教育は「学習指導要領」というものに基づいて行われます。「学習指導要領」とは、全国どこの学校でも一定の水準が保てるよう、文部科学省が定めている教育課程(カリキュラム)の基準です。
金融教育について公民科と家庭科という授業の中で行われるようです。「金融科」という新しい科目が追加されるわけではありません。
公民科の学習指導要領には以下のような記載があります。
公民編(引用)
「金融」については,現代の経済社会において,金融の意義や役割を理解させるとともに,金融市場の仕組み,中央銀行の役割や金融政策の目的と手段について理解させることが大切である。その際,「金融制度や資金の流れの変化などにも触れ」(内容の取扱い),近年,金融の自由化が進展していることや直接金融の比率が高まっていること,さらに近年の金融制度や資金の流れ,金融政策の変化などを理解させる。その際,クレジットカードや電子マネーなどの普及によるキャッシュレス社会の進行,金融商品の多様化など,身近で具体的な事例を通して指導の工夫を図ることが求められる。
はい、全くわかりません。これでもごく一部ですからね。続いて家庭編を見てみます。
家庭編(引用)
<生活における経済の計画>
ア 家計の構造や生活における経済と社会との関わり,家計管理について理解すること。
家計の構造や生活における経済と社会との関わりについては,可処分所得や非消費支出の分析など具体的な事例を通して,家計の構造を理解するとともに,家庭経済と国民経済との関わりなど経済循環における家計の位置付けとその役割の重要性について理解できるようにする。家計管理については, 収支バランスの重要性とともに,リスク管理も踏まえた家計管理の基本について理解できるようにする。その際,生涯を見通した経済計画を立てるには,教育資金,住宅取得,老後の備えの他にも,事故や病気,失業などリスクへの対応が必要であることを取り上げ,預貯金,民間保険,株式,債券,投資信託等の基本的な金融商品の特徴(メリット,デメリット),資産形成の視点にも触れるようにする。
イ 生涯を見通した生活における経済の管理や計画の重要性について,ライフステージや社会保障制度などと関連付けて考察すること。
生涯を見通した生活における経済の管理や計画の重要性については,各ライフステージの特徴と課題,家族構成や収入・支出の変化,生涯の賃金や働き方,社会保障制度などと関連付けながら考えることができるようにする。また,将来を見通して,事故や病気,失業,災害などの不可避的なリスクや,年金生活へのリスクに備えた経済的準備としての資金計画を具体的な事例を通して考察できるようにする。
はい、少なくとも私にはこの学習指導要領を基に何を学ぶのかさっぱりわからなかったため、金融庁のホームページに縋りつくことにしました。すると生徒向けと教員向けの動画があり、YouTubeで簡単に観られるようになっています。学生向けの動画は以下の通りです。
1.家計管理とライフプランニング~働いて稼ぐことと将来設計について
2.「使う」
3.「貯める・増やす」~資産形成
4.「備える」~社会保険と民間保険
5.「借りる」
6.金融トラブル
全て10分前後と短い動画になっているので是非すべてをご覧いただきたいところですが、私なりに観た内容を簡単にまとめます。(動画の詳細は一番下にリンク先を貼っておきます。)
動画の目的
金融リテラシーが高いを高めることによって、経済的に自立し、より良い暮らしを送ることができる。
1.家計管理とライフプランニング~働いて稼ぐことと将来設計について
・家計管理(収入と支出)、大学生や社会人になって必要なお金についてイメージする。
・収入ー支出=貯蓄ではなく、収入ー貯蓄=支出
・将来どんな人生を送りたいか(ライフプランニング)をイメージし収入と支出を考える。
・20代から30代、40代となるにつれてどのような人生を送りたいか具体的に時系列で描く。
・多様な働き方
・一般的な人生の3大費用「教育」「住宅」「老後」
・生涯の収支バランスのイメージ
2.「使う」
・ニーズ(needs)とウォンツ(wants)【必要なものと欲しいもの】
・キャッシュとキャッシュレス
・キャッシュレス決済のメリットとデメリット
3.「貯める・増やす」~資産形成
・安全性(お金が減らないかどうか)、収益性(どのくらい利益が期待できるか)、流動性(お金を引き出しやすいかどうか)
・安全性や流動性が高いものは収益性が低い。収益性が高いものは安全性や流動性が低い。
・金融商品の特徴
・利子・利率・複利
4.「備える」~社会保険と民間保険
・自身のライフプランに応じて社会保険と資産形成や民間保険(生命保険・損害保険)の利用を考える。
5.「借りる」
・「借りる」=将来の収入の先取り(利子、金利が発生する)
・住宅ローンとクレジットカード、キャッシュローン
6.金融トラブル
・マルチ商法(ネットワークビジネス)
・暗号資産(仮想通貨)(無登録業者とのやりとり)
・SNS個人間融資
・多重債務
・契約について(民法、消費者契約法、特定商取引法)
・全6回分の動画のまとめ
金融教育についての期待
私が今高校時代に戻れるならこういう授業を受けてみたかったなと思います。個人的にはなんで学校では社会保険や税金、食育、ITリテラシーについて教えてくれないんだろうと思って生きてきた人間ですので今回の改訂が今後どうなっていくのかには非常に期待をしています。「金融」や「社会保険」、「税金」といった科目がいずれ出来てくれるといいのですが。
現在のコロナ禍において、通学できずにオンラインで授業を受けることになっている生徒や学生が多くいると聞きます。本来であれば、クラスメイトと勉強について直接意見を交わしたりしてお互いに教えあい、切磋琢磨していくことで成長を実感できるのですが、このご治世ですから仕方のないことではあります。その分通学時間が減っていると思うので、学習スタイル自体が変化してきています。
今後コロナ禍が一段落したとしても、自分自身の学習スタイルを確立することが重要になりそうです。もちろん生徒や学生だけでなく、我々社会人にも言えることです。むしろ自分自身で学ぶ習慣や時間を作っていかないとどんどん若い人たちに追い抜かれてしまいます。まだまだ若いもんには負けんと言う気持ちで毎日を過ごしていきたいですね。
それでは本日もご覧いただきましてありがとうございました。
参考:金融庁ホームページ
文部科学省ホームページ
文部科学省ホームページ高等学校学習指導要領解説
文部科学省ホームページ高校生向け授業動画・教員向け解説動画
コメント