前回の記事で物価と賃金の上昇によって年金額が変わるというお話ししました。物価や賃金が下がれば年金額も下がり、物価や賃金が上がると年金額も全く同じ率ではないが上がるということです。(全く同じ率ではないというのは少しだけ触れたマクロ経済スライドの影響です。)
今回はそもそも年金額がどのように決まるのか、なぜ年金受給額が▲0.4%になったのか、マクロ経済スライドについてもう少し知りたいという方向けの内容になっています。
①年金額の決め方
⑴年金額の改定にあたっての基本原則
公的年金で老齢を支給事由とするものは老齢基礎年金と老齢厚生年金になります。この二つのうち受給要件を満たした者が必ず受け取ることが出来るのは老齢基礎年金になります。
老齢基礎年金は20歳から60歳までの40年間(480月)の納付実績によって決まります。一方老齢厚生年金は、主に会社員や公務員の方向けの年金となっており、自営業やフリーランスの方は厚生年金に加入することはできません。このような方は厚生年金の代わりとなる付加年金や国民年金基金などに加入して別途積み立てることになります。
つまり、年金額のベースとなるのは老齢基礎年金となります。国民年金法第27条では、「老齢基礎年金の額は780,900円に改定率を乗じて得た額とする。」とあります。
老齢基礎年金の額=780,900円×改定率
ここでいう改定率とは、簡単に世の中の賃金変動と物価変動を考慮して自動的に年金額にも反映させるという仕組みだと理解してください。
⑵賃金により改定or物価により改定
年金額の改定の可否は、物価よりも賃金が上がることを想定しています。(賃金指数>物価指数)
そして、改定率は68歳という年齢を分水嶺として判断します。
68歳未満(新規裁定者):前年度の改定率×名目手取り賃金変動率
※名目手取り賃金変動率=①前年の物価変動率×②3年前の年度の実質賃金変動率×③3年前の可処分所得変化率
68歳以上(既裁定者):前年度の基準年度以後改定率×物価変動率
ここで今まで私のブログを見ていただいた方であればすぐに察しが付くと思うのですが、賃金水準はここ30年以上ほとんど上がっていないこと、一方物価は徐々に上昇していることです。
つまり、デフレ下にある現在において物価>賃金に状態が続いていることになります。
また、政府は厚生年金保険の被保険者とすべく短時間労働者の拡大を進めています。
とすると今後も現状のような状況が続くものと思われます。
⑶2021年度から改正されたルール
この、「物価>賃金」の場合の年金額の改定ルールが2021年度から変更されています。
「物価>賃金」の場合、現役世代の負担増を抑えるため、賃金水準の変動に合わせるようになりました。
例えば、物価上昇率>0>賃金上昇率のケースにおいて、2020年度までは改定せずに年金額は前年度と同額だったのですが、2021年度以降からは賃金変動率に応じてマイナス改定することとなりました。
②マクロ経済スライド発動要件
ここまでは、年金額の決定の仕組みについてご説明しました。ではマクロ経済スライドについて少し解説いたします。前回の繰り返しになりますが、マクロ経済スライドとは少子化等の社会情勢、経済情勢の変動に応じて給付水準が自動的に調整される仕組みのことをいいます。
今回はもう少し踏み込みます。公的年金被保険者総数変動率と平均余命の伸び率を勘案した率(調整率)を、名目手取り賃金変動率と物価変動率がプラスになる場合に改定率から控除するというものです。前回「物価や賃金が上がってもその分が全て年金受給額増加に反映されるわけではない」と表現しましたがまさにこの部分の説明になります。
つまり、マクロ経済スライドによる調整は名目手取り賃金変動率と物価上昇率を勘案した結果、プラスに改定される場合にのみ発動するということになります。あくまで現役世代の負担を考慮し「伸び率を抑制」するものだと思ってください。
例えば、名目手取り賃金変動率と物価上昇率が2%伸びたので年金額も2%上昇、ということにはならず、ここでマクロ経済スライド(仮に0.3%とします)が発動すると2%-0.3%=1.7%の増加にとどめるということです。
マクロ経済スライドの導入背景は少子高齢化の進行にあります。保険料を負担する現役世代が減り、受給する側が増えていく一方にありますから、将来現役世代が受給する立場になったときに年金財政が破綻するのを防止するためです。そのために、公的年金被保険者総数変動率だけでなく平均余命の伸び率も考慮に入れているということです。
マクロ経済スライドは過去3回(2015年度、2019年度及び2020年度)発動されましたが、一時的な景気回復や消費税の引き上げが原因とされています。では発動されなかった分はどうなるのかというと、翌年度の以後に上乗せされる形で反映されることになります。(キャリーオーバー制)
③特例水準の解消とマクロ経済スライドの実施(2015年)
年金額は、2000年度から2002年度にかけて物価が下落した(▲1.7%)にもかかわらず、特例的にこれを据え置いた影響で、法律の本則で規定している水準(本来水準)より高い水準(特例水準、いわゆる過払い分)による額を支給することとされ、その額は2013年4月時点において本来水準を2.5%上回る状態にありました。
この特例水準と本来水準の差(2.5%)については、2012年に制定された改正法により、特例水準につき、①2013年10月に▲1.0%、②2014年4月に▲0.7%(正確には▲1.0%の引き下げが予定されていましたが、本来水準が0.3%上昇されたため)、③2015年4月には▲0.5%と、3段階に分けて引き下げが実施され2015年4月をもって特例水準は解消され本来の年金額を支給することになりました。
なお、特例水準が適用されている間はマクロ経済スライドの発動は凍結されていましたが、特例水準の解消により本来水準の年金額を支給することとされました。そして2015年度初めてマクロ経済スライドによる年金額の調整が実施されたのでした。(2015年度の年金額は、名目手取り賃金率が2.3%上昇、特例水準の解消▲0.5%、マクロ経済スライド調整率▲0.9%=0.9%の上昇となりました。)
④まとめ+次回の予告
前回より少し難しいお話になりましたが、いかがでしたでしょうか。特例水準は覚えなくていいのでかつてこんなことがあったんだ程度の認識で構いません。うろ覚えではありますが、年金が減ったとニュースになっていたのはこの特例水準の頃がピークだったように思います。それまでは高い水準で受給していたわけですので仕方ないことではありますが。
年金額の改定の仕組みは出来れば覚えておいた方がいいかなと思います。
長くなりましたので、上記の原則を踏まえて2022年のお話は次回とさせていただきたいと思います。
それでは本日もご覧いただきましてありがとうございました。
コメント