2023年10月1日、各都道府県ごとの最低賃金が改正されました。(以降、最低賃金は地域別最低賃金を指すものとします。)
引き上げ自体は8月に公表済みなのですが、導入されるのは本日からとなります。毎年の恒例行事みたいなものなので、最低賃金の額がいくらになっているのかに注目が行きがちなのですが、今年の改正はそれだけではありませんので少し注意が必要ですね。
令和5年度の最低賃金は?
今年度も全国47都道府県で最低賃金が引き上げられました。下がった都道府県はありません。
詳細は以下のリンクからご覧ください。
参考:令和5年度地域別最低賃金改定状況
1,000円を超えた都市は、東京都1,113円、神奈川県1,112円、埼玉県1,028円、千葉県1,026円、愛知県1,027円、京都府1,008円、大阪府1,064円、兵庫県1,001円の8都道府県になりました。うち、埼玉県、千葉県、京都府、兵庫県は今年度から1,000円の大台を超える結果となっています。また上げ幅は島根県、佐賀県の47円(前年度比)をはじめに過去最高となっています。
岸田文雄首相は8月31日、新しい資本主義実現会議でのあいさつにて、2030年代半ばまでに最低賃金額が全国加重平均で1,500円になることを目指すと述べ、地方で賃上げが可能になるよう新たな経済対策で中堅・中小企業の投資促進策を強化すると表明しました。
最低賃金の引き上げは、原則として、そのときの経済に合わせて適正なものとなるようにされており、昨今エネルギーや食料品価格が高騰する中、内需主導の経済成長を実現していくための対策と言えます。
最低賃金を下回っていないかどうかの確認方法
最低賃金を下回っていないかどうかは以下の計算方法で確認します。なお、最低賃金の対象になるのは、実際に支払われる賃金から次の賃金を除外したものが対象になります。
基礎となる賃金に算入しない賃金
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金(結婚祝金など)
- 一ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 時間外・休日・深夜割増賃金
計算式
時間給
その金額が最低賃金を下回っていなければ大丈夫です。これはそのままですね。
日給
その金額を1日の所定労働時間数(日によって異なる場合には、1週間における1日の平均所定労働時間数)で除した金額。≧最低賃金額
週休
その金額を週における所定労働時間数(週によって異なる場合には、4週間における1週の平均所定労働時間数)で除した金額。≧最低賃金額
月給
その金額を月における所定労働時間数(月によって異なる場合には、1年間における1月の平均所定労働時間数)で除した金額。≧最低賃金額
例:1ヵ月の平均所定労働時間数=1年の歴日数(365日または366日)ー所定休日日数(土日祝日、年末年始休暇など)×1日の所定労働時間数(8時間など)÷12月
(365日ー125日)×8時間÷12月=160時間
月給250,000円の方(上記、基礎となる賃金に算入しない賃金はないものとする)の場合、250,000円÷160時間=1,562.5円なので最低賃金を下回っていないことがわかります。
月、週以外の一定期間によって定められた賃金
上記4パターンに準じて算定した金額。≧最低賃金額
出来高払制その他の請負制によって定められた賃金
その賃金算定期間(賃金締切日がある場合には賃金締切期間)において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における総労働時間数で除した金額。≧最低賃金額
最低賃金の引き上げの影響は?
最低賃金の引き上げによる影響はどのようなことが考えられるでしょうか。
もちろん、引き上げは純粋に労働者目線では嬉しいと思う一方で、経営者や企業目線で考えるとどのような影響があるでしょうか。
人件費の増加
最低賃金が上がることにより、従業員に対する企業の負担が増えます。
東京都を例にすると、2023年10月1日現在、パート社員の時給を1,113円以上にしている企業については増額しなくても最低賃金法に違反することはありません。
これに対し、同年9月30日までの最低賃金1,072円で設定している企業は最低でも41円以上引き上げをしなければなりません。
ここで、イメージしやすいように簡単な具体例を考えてみます。
1日の所定労働時間が40時間のパートタイマーの方がいたとします。週5日勤務とした場合、この方の週の所定労働時間は40時間×5日で160時間となります。
従前であれば、160時間×1,072円=171,520円(社会保険料等を考慮しないものとします)となりますが、改正後は160時間×1,113円=178,080円となり、6,560円もの増額が発生します。これに社会保険料の負担等を考慮した場合、41円の増額が人件費与えるインパクトは小さくないと言えます。
従業員が1人であればそこまで影響がないように思えますが、パートタイマーなどの非正規労働者を多く抱える飲食業や小売業などにとっては大きな影響となるでしょう。
雇用の縮小
最低賃金が引き上げられれば、従業員の収入も増え物価高も乗り越えられるしいいことずくしのように思えますが、過去の賃金引き上げの際の実証データによれば、最低賃金が大幅に増額される場合、企業は雇用を縮小することが明らかになっています。
これは、企業は最低賃金引き上げによる人件費増額という経済的不合理を回避するためにするものと考えられます。
新規の求人等を控え、現存の従業員で賄おうとする傾向につながります。この行動はまた別の問題につながります。
正社員の負担の増加
非正規労働者の雇用が抑制されたとしても、業務量そのものは変わらないはずです。では、その穴埋めはどうするのでしょうか。
答えは簡単、正社員が穴埋めすることになります。正社員にはもともとの自分の業務がありますから、時間外労働や休日労働の増加により対応することになるでしょう。
正社員であっても、時間外労働、休日労働についての割増賃金の支払義務は当然生じますが、普段から勤怠をつけていない企業は、正社員に残業代を支払うことなくサービス残業として片付けられてしまうケースも考えられます。
また、時間外労働、休日労働の適用の除外となっている管理監督者にしわ寄せが行くことが考えられます。よくある例として、飲食店のパートタイマーの代わりに店長が穴埋めしているケースです。
終わりに
2022年10月からは従業員数101人以上の企業についても、週20時間以上働くパート・アルバイトの方を社会保険に加入させる義務を負うことになりました。少子高齢化の影響もありパートやアルバイトといった多様な形で就労する方が増えています。また、2024年10月から従業員数51人以上の企業についても、週20時間以上働くパート・アルバイトの方を社会保険に加入させる義務を負うことになる予定です。
過去にこの記事で触れたので、ぜひご覧ください。
パートタイマーの社会保険の負担は企業とって決して小さいものではありません。労働者のための最低賃金の引き上げが、逆に雇用の促進どころか抑制につながるのだとしたらそれは本末転倒です。
冒頭でも紹介しましたが、岸田首相は2030年代半ばまでに最低賃金額が全国加重平均で1,500円になることを目指すと述べており、今後も最低賃金の引き上げは行われていくものと思われます。
労働者目線だけでなく、中小零細企業にも目を向けて、本当のみでの経済対策を実施していってほしいと願っています。
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